ポリオ不活化ワクチン

東京都台東区のAちゃん(1)は11月下旬、母親のBさん(33)に連れられ、電車で30分かけて渋谷区の T医院を訪ねた。手足のまひを引き起こすポリオ(急性灰白髄炎)の不活化ワクチン接種のためだ。

ポリオの予防接種には、病原性を弱めたポリオウイルスをシロップに混ぜて飲む生ワクチンと、死んだウイルスを含む溶液を注射する不活化ワクチンの2種類がある。
生ワクチンは弱いながらもウイルスが生きているので、まれに接種後にポリオを発症し、まひが残ることがある。

これに対し不活化ワクチンはその心配がない。
世界では不活化ワクチンが標準だが、日本は生ワクチンを定期接種(公費負担)に使っている。

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不活化ワクチンを接種する場合、公費負担にはならない。
海外から取り寄せている医療機関を探すしかなく、計4回の接種で約2万円の自己負担が必要になる。
しかも健康被害が起きても、国の補償はない。

Bさんは悩んだが「万が一、まひが起こると怖い」と考え、不活化ワクチンの接種を決めた。
自宅近くで接種できる医療機関がなく、対応しているたからぎ医院に足を運んだ。

院長のT先生は「遠い仙台や名古屋から来た人もいる」と言う。
Bさんは「早く、全国どこでも不活化ワクチンを安心して接種できるようになってほしい」と話す。

国産の不活化ワクチンは製薬企業が開発中で、年内にも承認申請する。
厚生労働省は審査を急ぐが、導入は早くても来年度末の見込みだ。
「安全性や有効性の確認をおろそかにできない」(同省)と言う。

患者団体などは承認までの間、海外の不活化ワクチンの緊急輸入を要望している。
だが、同省は「緊急輸入は病気が流行して防ぐ手段がない時の特例措置。
ポリオは流行しておらず、生ワクチンの予防効果も高い」と応じない考えだ。

ただ、まひへの恐れから今春の全国の生ワクチン接種率は昨春より18%も落ちた。
自費で不活化ワクチンを接種した人と、導入を待つ人の両方がいるとみられる。
同省は「免疫のない子どもが増えるのは危険だ。不活化ワクチン導入までは生ワクチンの接種をしてほしい」と呼び掛ける。

日本小児科学会は「何も接種しない選択が最も良くない」とし、生か不活化のいずれかのワクチン接種を勧める声明を出した。

不活化導入を急ぐよう国に働きかける動きもある。
神奈川県は今月から不活化ワクチンを独自に輸入し、希望者に有料で接種する事業を開始した。

T先生は「不活化ワクチン導入を待ち望む多くの人の声に国はすぐにでも応えてほしい」と訴える。

出典 YOMIURI ONLINE yomi.Dr. 2011.12.5
版権 読売新聞社


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