日本脳炎「予防接種受けて」 未接種の子供なお多く

脳に重い障害などを起こす日本脳炎は有効な治療法がないため、ワクチンの予防接種が重要だ。
ワクチンが原因とみられる副作用が報告されたのを機に接種が事実上中止になったが、新ワクチンが承認され、一昨年から国は再び接種を勧奨するようになった。
ただ中断していた空白期に接種しなかった子供も少なくない。
専門家は、自治体から案内が来たら忘れずに接種してほしいと呼びかけている。

日本脳炎は原因となるウイルスが感染して起こる急性脳炎だ。
ウイルスに感染した豚を蚊(コガタアカイエカ)が刺し、さらにその蚊(感染蚊)が人を刺すとうつる。
ただし、ウイルスに感染しても発症するのは100~1000人に1人程度で、大半は症状が表れないという。
また、人から人にはうつらない。

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患者、年10人以下
日本脳炎と名前が付いているが、原因ウイルスは東アジアや東南アジアに広く分布しており、数万人規模の患者が発生している。
潜伏期間は6~16日で、その後に高熱や頭痛、けいれん、嘔吐、意識障害といった症状が表れる。
今のところ有効な治療法がないため、発症すると約20~40%が亡くなる。
神経系の後遺症が出る例も多い。

国内の患者数は1966年に2000人を上回るなど多かったが、予防接種や網戸の普及、田んぼの減少などでその後は激減。近年は年間10人以下で推移している。

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患者の大半は高齢者で、主に豚の感染率が高く、気候も温暖な九州・沖縄、中国、四国などで発症する例が多い。
ただ豚は日本各地で飼育されているため、「少なくとも関東以西では感染リスクはゼロではない」と国立感染症研究所の高崎智彦ウイルス第1部第2室長は指摘する。

日本脳炎はワクチンによる予防が重要として、厚生労働省も定期接種に取り組んできた。
ところが2004年に、旧ワクチンを接種した中学生がADEM(アデム、急性散在性脳脊髄炎)という重い病気を発症したと報告された。
旧ワクチンはウイルスをマウスの脳に感染させて作っていた。

ワクチン接種とADEMの発症との因果関係が否定できないとして、厚労省は05年から接種の積極的な呼びかけをやめ、接種は事実上中止された。

その後、09年に現行の「乾燥細胞培養日本脳炎ワクチン」が承認され、翌年から厚労省は接種の勧奨を再開した。
このワクチンは作り方が変更されており、原因ウイルスを特殊な細胞で増殖させてからウイルスを採取。感染性をなくす不活化処理をした後に精製する。
マウスの脳成分が混入する恐れはない。

「定期」は2期4回
定期接種は2期4回で、第1期は生後6カ月以上90カ月未満の間に3回、第2期は9歳以上13歳未満の間に1回となっている。
厚労省は標準的なスケジュールとして、3歳に2回、4歳に1回、9歳に1回受けるよう勧めている。

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接種にあたって保護者が注意すべき主なポイントは、
(1)予防接種に関する自治体からの通知をよく読み、疑問点は医師などに相談する
(2)当日は発熱などがなく体調がよいこと
(3)母子健康手帳を持参すること
――など。
他の予防接種と同様だ。接種直後は、しばらく様子を見て、体調などに変化が認められたら直ちに受診する。

現行のワクチンでは、接種後に発熱や注射部位の腫れ、発疹などが起こるケースも報告されている。ADEMの発生頻度などは現時点では不明なため、厚労省は注意深くみていく考えだ。
このほか、現行ワクチンが旧タイプと同様の効き目を維持できるのかを確認することも大切。

厚労省が接種の呼びかけを控えたのは05~09年。
この時期が定期接種の期間と重なった子供は接種を受けていない可能性があり、専門家は心配している。ワクチンの中止によって、日本脳炎ウイルスに対する免疫を持たない子供が増えた。
子供でも少数だが、患者が発生している。

厚労省も空白期で接種しなかった子供が定期接種を受けられるよう対策を取っている。
通常は市区町村から接種を呼びかける通知が届くので、忘れずに受けたい。ただ、こうした取り組みにも関わらず、接種を希望する保護者はまだ少ない。

韓国では10年に日本脳炎患者が25人報告された。
気温が上がる夏場は豚の感染率も上がる。
日本脳炎ウイルスにもっと注意を払う必要がある。
編集委員 鹿児島昌樹)

出典 日経新聞・夕刊 2011.3.30
版権 日経新聞


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「ホノルルの青空」 現地時間 2012.3.20 17:38 撮影


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