扇風機・冷却グッズの活用術

扇風機・冷却グッズの活用術  節電の夏を乗り切る

東京電力福島第1原子力発電所事故の影響で、今年の夏は東日本を中心に節電モードに突入する。
エアコンを使わず昼夜を過ごしたり、時間をずらして仕事するサマータイムを導入したりする動きがある。ただ体調を崩さないよう過ごすにはちょっとした工夫が必要だ。
1回目は扇風機や冷却グッズの上手な使い方について考えてみる。
体が熱を発散する仕組みを理解して、自分に合った使い方を見つけるのが良いようだ。

「寝るときに静かで節電効果が高い扇風機はどれか教えてほしい」「扇風機の値段の差はどこからきているのか」。
家電の選び方などを案内する家電コンシェルジュの神原サリーさんのもとには3月の福島原発事故以降、扇風機に関する相談が急増した。
「部屋に1台ずつ備えようとあわてて量販店にかけこんでいるようだ」と神原さんは話す。


風を当て続けない
エアコンによる冷房は効果は高いが消費電力が大きいのが悩みの種。
代役として重宝するのが扇風機だ。
だが思い出してみると「扇風機をつけたまま寝ると体によくない」などと両親や年配者から注意された人は多いはず。
日本医科大学の飯野靖彦教授は「扇風機は送風により体温を下げているが、同じ部位に風を直接当て続けると皮膚から熱を奪いすぎてしまうので、首振り機能を使うなどの注意が必要」と話す。

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人間は体内で作る熱の量と、外部へ発散する量のバランスで健康を維持する。
高温の空気に長時間さらされると、作る熱の量が発散量を上回り体温が上がる。
人間は体温の上昇を防ぐため、通常は皮膚に接している空気に熱を伝え、その空気を入れ替えて体温を下げる。
それでも下がらず、気温が30度近くなると汗を出し、それを蒸発させることで熱の発散を加速、体温を下げるようになる。

こうした汗が出た場合には、すぐにふき取って汗が出やすい状態をつくることが大切だ。
だらだらと流しておくと皮膚の周囲の湿度が上がり、汗が蒸発しにくくなる。
飯野教授は「扇風機やうちわなどで風を送ると対流が起きて汗もかきやすくなる。理にかなった方法だ」と話す。

暑さで最も心配になるのは睡眠時だ。
「寝苦しさを感じるのは体の奥の深部体温が下がらないため」と睡眠学を研究する東京医科大学の駒田陽子准教授は説明する。

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夏の冷えには注意
人は、日中活動しているときは深部体温が皮膚の表面温度より高い。
夜になって深部体温が下がると入眠しやすくなる。
深部体温は皮膚からの放熱で下がる。夜まで気温が高く湿度が高いと、皮膚からの放熱が進まず深部体温も高いままとなるため、寝付きにくくなる。
皮膚から放熱を進める環境づくりが重要だ。


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睡眠不足で体調を崩しては意味がない。
駒田准教授は「特に蒸し暑い夜は無理せずに、寝る前や就寝後しばらくの間エアコンを活用してみては」と助言する。

逆に“夏の冷え”を心配する専門家もいる。
「冷たい飲み物や食べ物の摂取し過ぎ、冷却グッズの使い過ぎなどで冷えを訴える人が増えるのではないか」。
冷え性の治療にあたっている東京女子医科大学の川嶋朗准教授は話す。

ここ数年、夏の冷え性はエアコンの使い過ぎが主な原因だった。
今年は節電でエアコンの利用を控えるものの、暑さはがまんできずアイスやかき氷、冷えた飲み物や麺類などに涼を求めると考えられる。
実は冷たい飲食物を取り過ぎると胃腸の働きが弱くなり、消化吸収の能力が低下、便秘や下痢、食欲不振を招きやすい。
氷や冷却剤などを同じ場所にずっと使い続けると、体表の血液のめぐりが悪くなり体の代謝の悪化を招く可能性がある。

川嶋准教授は「エアコンによる冷房に慣れた現代人は、汗をかきながら暑さをしのぐ体力や訓練が不足している可能性が高い」と指摘、「これを機に無理やり冷やそうとせずに、暑さを楽しむ工夫も考えてみたらどうか」と提案する。

出典 日経新聞 Web刊 2011.6.19
版権 日経新聞


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