がんPET検診 ~ がん早期発見への近道 その5(5/6)

予後の悪いがんは、転移する前に見つけたい

年々増え続けている肺がん。
予後も悪く、日本では最も死亡者数の多いがんになっています。
肺がんの現状はどうなっているのか、また肺がんで亡くならないためにはどうしたらいいのか。
インタビューしたのは昭和大学横浜市北部病院・呼吸器センター長の中島宏昭教授(同病院・副院長)。


肺がんは増えている
肺がんは世界的に増加傾向にあります。
日本も例外ではなく、肺がんにかかる人(罹患者)も、肺がんで亡くなる人も増えています。
2003年の肺がんによる年間死亡者数は約5万7千人。
1993年からは肺がんは男性のがん死亡率の第1位となり、女性では胃がんに次いで第2位となっています。2015年には、日本での肺がんの1年間の新患者数は男性11万人、女性3万7千人になると予想されています。
 
肺がんによる死亡者が増えてきた最大の理由は、平均寿命が延びてきたこと。
人生50年と言われていた一昔前とは異なり、現在の平均寿命は男女とも70歳を超えています。
肺がんで最も多いのは、70代、次いで60代、80代ですから、昔はがんになるまで生きていなかったことになります。
 
次にたばこです。
たばこを多く吸う人ほど肺がんにかかりやすく、一般に「重喫煙者(1日の本数×喫煙年数=喫煙指数が600以上の人)」は、肺がんの「高危険群(リスクの高い人)」といわれています。
肺がん患者の男女比が、約3:1というのも、男性に喫煙者が多いことが大きな原因といえるでしょう。
 
日本でも喫煙のがんに対する影響が啓発されたおかげで、男性の喫煙者数は昨年ようやく50%を切りました。
それでも欧米と比べると依然として喫煙率は高く、若い世代や女性の喫煙者はむしろ増加しつつあるのです。
そのため、以前は稀だった20代30代の肺がんの患者さんを、最近は時々診ることがあります。

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低タールのタバコが肺がんを変えた
最近は、「比較的健康被害が少ない」との考えから、低タールのたばこを好む人が増えています。
たばこには4000種の化学物質が含まれ、そのうちの200種は発がん性物質だと言われています。
タールはそのうちのひとつに過ぎず、タールだけを抑えてもあまり意味がありません。
たばこを低タールのものに変える人が増えても、肺がんは一向に減っていないというのが現状です。
 
また、低タールのたばこの普及は、肺がんができる場所を大きく変化させました。
たばこに関連するがんは、肺の入り口の「肺門部」にできることが多かったのですが、
最近は肺の奥の「肺野部」のがんが急増しています。
低タールのたばこは軽いので、ついつい深く吸い込む。
通常は煙の届きにくい肺野部にまで影響を与えているのではないでしょうか。


予後の悪い肺がん、早期発見がカギ
がんの中で罹患者数が最も多いのは胃がん、死亡者数が最も多いのが肺がんです。
つまり、胃がんは治るけれど、肺がんは治りにくい。肺がん全体の5年生存率(治療開始から5年間生存している割合)は病期によっても異なりますが25~30%程度です。
しかし、リンパ節や他の臓器に転移をしていなければ、治癒する確率は非常に高く、Ⅰ期(がんが原発巣にとどまっている状態)であれば、5年生存率は70%以上になっています。
そのためにできるだけ早期に見つけることがたいせつですが、自覚症状が非常に出にくい。
何かおかしいなと感じて検査を受ける頃には、かなり進行している場合が少なくありません。
 
ごく早期の肺がんは検診あるいは他の病気で検査を受けて偶然見つかるケースがほとんどです。
しかし、検診でよく使われるエックス線の単純撮影では、1センチ以下のがんはなかなか見つけることができません。
また、簡単にできる喀痰細胞診は、肺門部のがんを高い確率で見つけることができますが、肺野部のがんまで発見するのは難しいでしょう。
 
しかし最近は、診断技術の進歩とともに早期発見の可能性が飛躍的にアップしています。CT(コンピュータ断層撮影)やヘリカルCT(多角度から立体的に撮影をするCT)のほか、PET(Positron Emission Tomography)なども最新技術の一つです。
 
PETは、身体の中に陽電子(Positron)を含んだ薬を注射してがんを見つける方法です。
この薬は、がん細胞のように糖代謝の活発な細胞に取り込まれる性質を持っているため、特殊なカメラで外から撮影すると、がんをとらえることができるのです。
このような早期発見法の開発によって、肺がんの死亡率も減少していくことが期待されています。


<関連サイト>
がんPET検診 ~ がん早期発見への近道 その1(1/6)
http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy/archive/2011/06/10

がんPET検診 ~ がん早期発見への近道 その2(2/6)
http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy/archive/2011/06/20

がんPET検診 ~ がん早期発見への近道 その3(3/6)
http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy/archive/2011/06/24

がんPET検診 ~ がん早期発見への近道 その4(4/6)
http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy/archive/2011/07/07


出典 日経いきいき健康 http://ps.nikkei.co.jp/hlthpet/pet_05.html
版権 日経新聞


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