精神疾患を追加して「5大疾患」

厚生労働省は8月6日、厚労相の諮問機関・社会保障審議会医療部会に対し、都道府県が作成する地域保健医療計画で「4大疾病」とされてきたがん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病に精神疾患を追加して「5大疾患」とする方針を示した。
同部会はこれを了承した。

医療計画をめぐっては、平成19年に施行された改正医療法により、4大疾病と5事業(救急医療、災害医療、僻地医療、周産期医療、小児医療、その他)ごとに、医療連携体制を構築。必要な医療機能を担う医療機関の名称や数値目標、予防対策などが記載される新しい医療計画が作成されていた。

しかし、高齢化に伴う認知症など精神疾患の増加を受け、厚労省は4大疾病と同等の重点対策が必要と判断。
国の医療政策基本指針に精神疾患を加え、都道府県の医療計画にも反映させる方針を決めた。

出典 msn.産経ニュース 2011.7.7
版権 産経新聞


(他のニュースソース(JPN 47 NEWS)より。)
既に社会保障審議会医療部会で了承されており、厚労省は医療計画に関するガイドラインに記載し、12月をめどに各都道府県に示す方針。多くの都道府県で2013年度以降の医療計画に反映させる。
医療計画は都道府県が作成するもので、5年ごとに更新。



[解説]「5大疾病」に位置づけ

精神医療の充実期待 誤診や過剰投薬など課題も
厚生労働省は先月、精神疾患を、がん、脳卒中、心臓病、糖尿病と並ぶ「5大疾病」と位置づけ、重点対策を行うことを決めた。

諸外国に比べて遅れている精神医療の充実が期待できるが、課題も山積している。

同省の2008年の調査では、精神疾患の患者は323万人にのぼり、237万人の糖尿病、152万人のがんなど他の4大疾病を大幅に上回った。

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今回の国の決定を受けて、各都道府県は、患者を減らす予防策や医療機関の連携強化などの医療計画を練る。
その計画の柱となるのが、訪問診療や訪問看護などの在宅医療の充実だ。

厚生労働省の調査によると、日本の精神病床数は35万床弱(09年)で、全病院の病床の約2割を占めている。
平均在院日数は300日を超え、長さは世界でも突出している。

一方で、精神病床の医師数は一般診療科の3分の1でよいと規定されており、幻覚や妄想に苦しむ統合失調症の患者に対して、手薄な入院治療が長い間行われてきた。

患者の中には、在宅で十分な医療支援を受けられないため、長期入院を強いられる「社会的入院」も少なくない。
厚労省の患者調査では、社会的入院は約6万2000人にのぼる。

在宅医療の充実は、こうした不必要な入院を減らし、患者の社会復帰を促すなど、従来の施設収容型の精神医療を大きく転換させる契機になると期待される。

また、未受診の患者を発症の初期に見つけて、悪化を防ぐ早期支援体制も拡大が予想される。

統合失調症は、発症してすぐに治療を始めると脳のダメージが少なくなり、悪化や再発がしにくくなるという研究がある。
しかし国内の患者は、発症から医療機関にかかるまでに平均17か月かかっており、早期に医療機関にかかれる体制づくりが求められていた。

国立精神・神経医療研究センターの大野裕・認知行動療法センター長は「在宅医療が拡大すると、医療チームが患者の生活環境を改善しやすくなる。早期に対応すれば、薬物療法だけでなく、考え方の偏りを修正する認知行動療法も活用できる」と、5大疾病に位置づけられた意義を語る。

ただし、課題もある。

統合失調症では近年、誤診が多いことが専門家の間でも指摘されるようになった。
特に、知的障害がないのに、円滑な対人関係を築けない「高機能広汎性発達障害」の人たちの特徴が、統合失調症の初期症状と誤解されてしまうのだ。

これらの人たちに統合失調症の薬を投与すると、少量でも精神状態が著しく悪化するケースが多い。
長男を誤診された母親は「今のままで早期発見の対策を推し進めると、被害者が増えかねない」と訴える。

診断の問題は、うつ病でも存在する。大阪市で先月開かれた日本うつ病学会総会で、講演した複数の精神科医が「抗うつ薬の販路拡大を目指す製薬会社のキャンペーンに影響され、診断が過剰になった側面がある」と語った。

病気ではないのにうつ病と過剰診断した結果、対人関係を原因とする一時的な落ち込みにまで抗うつ薬が処方され、休職期間をかえって長引かせた。

今回のうつ病学会総会で製薬会社がPRに最も力を入れたのは、そうとうつ状態を繰り返す「双極性障害」だった。ある精神科医は、会場でこう皮肉った。

「製薬会社の活動で、今度は双極性障害の“患者”が急増するだろう」

薬物治療についても、統合失調症患者に不適切な薬を大量に処方する多剤大量投薬の問題が残る。
抗うつ薬の服用で、自殺衝動が表れる人がいることも問題になった。

今後、5大疾病の治療の一翼を担う精神科医の責任は、ますます重くなる。社会の信頼を得るためには、関連学会が精神医療の問題点を自ら洗い出し、専門医の実力を高めるための対策を早急に講じるべきだ。(医療情報部・佐藤光展)

出典 読売新聞 2011.8.10
版権 読売新聞社


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出典 朝日新聞 2011.8.10
版権 朝日新聞社



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