夏の結膜炎

結膜炎、夏の予防策

朝起きると普段より目やにが多く、まぶたが開きづらい――。
こんな目の症状が見つかったら結膜炎を疑った方がいい。
休日や学校などでプールに入ることが多い夏場はウイルスが活発で、結膜炎に感染しやすい。
放っておくと症状が悪化することもあるので、なるべく早く病院で診察を受けたほうがいい。
他の人にもうつりやすいため、感染予防を徹底したいところだ。

結膜炎はウイルスや細菌、ハウスダストなどで、結膜が炎症を起こす病気だ。
結膜とは上下まぶたの裏側と、白目の表面を覆っている非常に薄い半透明の膜。
まぶたの裏にある膜は「眼瞼結膜」、白目表面の膜は「眼球結膜」と呼ばれ、両者はつながって袋状になっている。
目を開けている間は表面の結膜が常に外部にさらされている状態になり、刺激を受けやすい。

目の充血、目やに、涙、異物感、かゆみ……。
結膜炎の症状は様々で、ひどくなると出血や発熱、白目のむくみなどを伴うものもある。
結膜炎は大きく分けて「感染性」と「アレルギー性」の2種類があるが、感染性の中でもウイルスが原因で発症する結膜炎は、学校や職場、プールなどで感染が広がる。
集団発症で学級閉鎖に一時的に追い込まれるなどのケースもある。

ウイルス性結膜炎をさらに細かく分類すると、一般に「はやり目」とも呼ばれる「流行性角結膜炎」や、発熱と喉の痛みを伴う「いんとう結膜熱」などがある。
後者は「プール熱」の別名がある。

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点眼薬で炎症抑制
特に注意が必要とされるのが、感染力が強いアデノウイルスで発症する流行性角結膜炎だ。
約7日間のウイルス潜伏期間を経て発症する。
症状としては目の充血や目やにに加え、まぶた裏側の結膜に袋状のブツブツができたり、耳の前のリンパ節が腫れたりすることがある。
症状が悪化すると角膜が濁って視力が下がってしまうこともある。
最初は片目だけでも数日後にもう片目で発症することもある。

残念ながらウイルス性結膜炎に効く特効薬は今のところなく、点眼薬を使って炎症や症状の悪化を抑える。
多くの場合、10~14日程度で症状は治まるため、基本的には自然に治るまで待つしかない。

とはいえ治癒するまでの間、結膜炎をいかに他人にうつさないかを考えるのは大事なエチケット。
また、まわりに感染者がいた場合にどのように自分を守るのか。知識を持っていた方がいい。

最も多いのが涙などを介した接触による感染だ。
感染者の涙や目やにがついたドアノブや机、電車の手すり、タオルなどを自分の手で触り、目をこすったりすると、うつりやすい。
普段コンタクトレンズをしている人は結膜や角膜の傷からウイルスが侵入し、感染しやすいようだ。

予防法としては、まずは清潔にすることを心がけたい。
外出先からの帰宅後や、感染者が触ったものに触れたらきちんと手洗いをする。
できれば高濃度の消毒用アルコールで手を洗い、10分ほど自然乾燥させるのが望ましい。
タオルや枕、点眼薬などを感染者と共有することも避けるべきだ。
他の人にうつさないためには風呂は家族で最後に入り、湯は交換し、浴室などをきれいに掃除しよう。

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プールで泳いだ後の洗眼の是非については意見が分かれている。
小学校などで、よくプール脇などに設置してある洗眼器で目を洗ったことがある人も多いだろうが、その効果を疑問視する声もある。

水道水の浸透圧と塩素によって、逆に目の防護機能を奪ってしまう、という意見もある。
学校のプールでは少し目立つが、感染予防のためゴーグルの着用も勧められる。

眼科で早めに診察
感染したらなるべく他者との接触を避け、学校や職場などでの感染拡大を抑えたいところだ。
学校保健安全法では、流行性角結膜炎などは医師の判断で感染力がなくなったとされるまで一定の期間、登校を禁じている。
大人でも発症が分かり次第、仕事を休むのが望ましい。
アデノウイルスに感染したかどうかが数分で分かる簡易キットを備えている病院は多く、症状を自覚したらなるべく早く眼科で診察を受けよう。

感染性とは別のくくりとして、結膜炎にはほかにアレルギー性結膜炎がある。
こちらはスギ花粉が多く飛ぶ春先に発症する人が多いが、最近の傾向としてはハウスダストやダニなどが原因となり、一年中、アレルギー性結膜炎に悩まされる人が増えている。

目の充血や目やになどの症状は感染性と共通するが、感染性ほど症状がひどくはならないことが多い。
大きな違いは目やまぶたがかゆくなることで、我慢できずに目をかいてしまうと症状が悪化する恐れがある。
抗アレルギー成分を含む点眼薬で症状を抑える。
事前の予防策は、スギ花粉が飛び始める前に点眼を始めるといいとの意見もある。
外出時には花粉対策用のゴーグルをしたり、部屋をきちんと掃除したりするなどの対策が効果的だろう。
山本優

出典 日経新聞 ・夕刊 2011.8.12 (一部改変)
版権 日経新聞


<結膜炎 関連サイト>
ウイルス性結膜炎
http://www.nichigan.or.jp/public/disease/ketsumaku_virus.jsp
(「日本眼科学会」のサイトです)
■原因のウイルスには、アデノウイルスエンテロウイルスヘルペスウイルスなどがあります。
いずれも他の人からウイルスが体に入って発症するものであり、他の人に感染させる力も強く、家族内感染や学校内の集団感染などの原因になります。

流行性角結膜炎
感染力が強く、昔から一般に「はやり目」と呼ばれているものです。
アデノウイルス(8型、19型、37型、53型など)によって起こります。
症状としては、結膜が充血し目やにや涙がたくさん出て、眼痛を伴うことがあります。
耳の前や顎の下にあるリンパ節が腫れることもあります。
症状の強い人では、結膜の表面に白い炎症性の膜(偽膜)ができることがあり、特に小さなお子さんでは成人より生じやすいといわれています。
この病気の潜伏期は約1週間から10日です。
最初は片目だけに発症しても、数日中にもう片目に症状が出現することがあります。
通常、発症してから約1週間の間に病状のピークがあり、その後徐々に改善してきますが、炎症が強い場合は黒目(角膜)の表面に小さな濁りが残ることがあります。
そのために曇った感じが続く方がいます。
濁りが完全に消えるまでに数か月かかることもあります。
咽頭結膜熱
アデノウイルス(3型、4型、7型など)によって起こる結膜炎です。
この結膜炎は、白目の充血や目やにといった目の症状は流行性角結膜炎より弱い反面、のどの痛みや39度前後の発熱などの呼吸器系の症状がみられます。
潜伏期や経過などは流行性角結膜炎と似ています。
夏かぜとして流行することがあり、そのためにプールを介して子供たちの間に流行することがあることから、俗に「プール熱」と呼ばれます。
急性出血性結膜炎
エンテロウイルス(70型)やコクサッキーウイルス(A24変異型)などエンテロウイルスの仲間によって起こる結膜炎です。
症状は急性で、充血、目やに、ゴロゴロ感などが出現し、白目に出血がよくみられるために、この病名がついています。
潜伏期は1日前後で、ほとんどの場合、両目に結膜炎が発症しますが、症状は発症から1週間以内のうちに治ります。
かつてはアポロ病などの名前で呼ばれ、世界中で大流行を起こしたことがありましたが、我が国では大きな流行は、最近では起きていません。
ヘルペス性結膜炎
単純ヘルペスウイルスによる結膜炎で、お子さんが初めてヘルペスウイルスに感染したときにみられることが多い病気です。
症状からは、アデノウイルスによる結膜炎と区別できないですが、両目が侵されることは少ないです。
時に目の周りの皮膚に小さな水疱がみられることもあり、この場合はヘルペスに対する軟膏薬によって治療する必要があります。

■ウイルス性結膜炎の感染予防
他人へ感染させる恐れのある期間は、流行性角結膜炎咽頭結膜熱では約1~2週間、急性出血性結膜炎では3~4日です。
ウイルス性結膜炎は学校伝染病に指定されており、流行性角結膜炎と急性出血性結膜炎は医師が周囲への感染力がなくなったと判断するまで、咽頭結膜熱は主要症状がなくなった後2日を経過するまで登校を禁止することになっています。


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