ペットに口移しは危険

ペットなどの動物から人間にうつる「動物由来感染症」が今後、国内で増加しそうだ。
背景にあるのは、高齢化やペットとの生活の変化。
かまれたり、ひっかかれたりして感染し、中には死に至るケースもある。

愛するペットに口移し……で寄生虫卵や病原体をもらう危険性

ペットと人間の共生が進むことでズーノーシス(人獣共通感染症)の危険性が高まっている。 
このズーノーシスが「現代病」として問題になるのは、高齢者の感染だと指摘するのは、『危ない!ペットとあなたを感染症が襲う』の著者で、獣医の伊東彰仁氏(52)だ。

最悪死亡も…ペットからの感染症が増加
「昔は庭で飼っていたペットを、室内で飼う。しかも外部からの異物侵入に対して抵抗力のない高齢者が、過剰なスキンシップをとってペットと暮らしている。これは非常に危険です」

現代社会では、動物の交通事故や病気の予防のため部屋飼いメリットは高い。
しかし、病気の人や高齢者には危険にもなるのだ。

「抵抗力が弱った方に絶対にやめていただきたいのは、ペットとの過剰なスキンシップをとる行為です。一緒の布団で寝る、という人が多いのですが、これは危険。口移しで食べ物を食べさせるのも、寄生虫の卵や他の病原体をもらう可能性が高まります。一緒の食器で食べる、箸で分け与える、というのもやめるなど、部屋飼いルールを守ることが大事です」

では、ズーノーシスを予防するためにはどうしたらいいのだろう。

「動物の世話をすることが生き甲斐になっている人が多いのですが、感染しては自分の命を縮めてしまいます。狂犬病注射に加え、年に最低1回ペットに定期診断を受けさせれば、リスクを減らせます。猫なども同様です」




<追加>
感染症の病原体は哺乳類や鳥類、爬虫類などが保有し、世界に数百種類あるとされる。
最も身近な犬や猫からうつる可能性があるのは、かまれたりひっかかれたりすることで感染する「パスツレラ症」や「猫ひっかき病」などだ。

厚生労働省が注意喚起している「カプノサイトファーガ・カニモルサス感染症」では平成5~20年の間に国内で20~90代の18人が感染し、6人が死亡した。

これらの感染症の病原体は犬や猫が一般的に保有しているうえ、国は医師に発症患者の届け出を義務付けていない。
そのため、実際の発症件数や重症者数、死者数は症例報告数よりも多いと思われるが、詳細は不明だ。

しかし、近年のペットブームによるペット数の増加▽免疫力の低い高齢者の増加▽ペットを人間同様に扱う習慣の一般化▽屋内でペットと一緒に過ごす時間の増加-など、人とペットを取り巻く環境は大きく変化。国立感染症研究所の今岡浩一・獣医科学部第一室長(48)は「今後、動物由来感染症は増加する可能性もある」と推測する

特に注意が必要なのが、持病がある高齢者。
カプノサイトファーガ・カニモルサス感染症で死亡した6人は50~90代の高齢者だった。
核家族化や高齢化で1人暮らしとなり、癒やしのアイテムとして家族代わりにペットを飼う高齢者は多い。
口移しで餌を与えたり、顔をなめさせるなど過剰な接触を避け、食べ残しの餌や抜けた毛、糞尿(ふんにょう)などはすぐ掃除し、飼育場所を清潔に保つことなどが大事だ。

ペットフード協会によると、平成21年に飼育されていた犬猫は全国で約2234万匹で、6年の約1・4倍。ペットの飼育は今後も増加するとみられ、動物由来感染症に対する注意が必要だ。

今岡室長は「ペットとの接触を過剰に怖がることはない。ただ、ペットと暮らす際には感染症のリスクもあるということを知り、体に異変が出た場合はすぐに病院に行くことを心掛けてほしい」と話している。

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出典 産経新聞 2010.12.2
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