尿酸値無理に下げずに

痛風、投薬の前に生活改善 尿酸値無理に下げずに

「抗酸化の役目」 悪玉扱い見直しの動き

足指の関節などに激痛の発作が起きる痛風と、その予備軍である高尿酸血症
治療の目標は長らく、原因物質である尿酸の値を投薬で引き下げることだった。
しかし、最近は尿酸値を無理に下げず、患者にまず生活習慣の改善を促す治療に移行してきた。
尿酸をいたずらに悪玉扱いしない見方も出ている。

50歳代の男性Aさんは20年前の健康診断で、尿酸値が血清1デシリットル当たり9ミリグラムを超え、高尿酸血症と診断された。
以来発作を一度も起こさないまま、体内でプリン体と呼ばれる成分から尿酸が合成されるのを妨げる薬を飲み続けている。
尿酸値は5ミリグラム前後を維持していたが、ここ数年はだんだんと高まり、7ミリグラムに迫っている。
発作の不安を訴えるAさんに対して、主治医は「水分をよく取っておけば大丈夫」と動じない。

■発症と相関性薄い
「尿酸値を下げたら病気が改善するという医学的証拠はもともとない」と主張するのは、東京医科大学医学総合研究所の西岡久寿樹所長。
1970年に三重県の離島で全住民約3300人を対象とする調査を実施し、尿酸値と病気との間に明確な関係がないことを突き止めた。
「去年の米国リウマチ学会では、尿酸値を下げる意義が明確に否定された」と言う。

尿酸値が7ミリグラムを超えると高尿酸血症と呼ばれ、痛風の症状が出やすくなる。
国内の痛風患者数は約30万~50万人で、大多数が男性。
高尿酸血症患者は約500万人と推定されている。
成人男性の約1割が高尿酸血症で、そのうち痛風を発症するのは約1割だけ。
高尿酸血症だと痛風になる」とは必ずしもいえない。

高尿酸状態を招くのは、肉や糖分・油分の取り過ぎや酒の飲み過ぎ、睡眠不足や運動不足、過剰なストレスなど。
こうした生活習慣が痛風という病気をもたらす。
「尿酸値は一種のマーカー(指標)。薬で尿酸値だけを下げても、生活習慣を変えなかったら意味はない」(西岡所長)という指摘はもっともだ。

専門家や研究者でつくる日本痛風核酸代謝学会は2002年に高尿酸血症痛風の治療ガイドラインを策定した。
それまでばらばらだった治療目標を定め、例えば痛風患者は尿酸値を6ミリグラム以下にすることが望ましいとした。
同学会理事長の細谷龍男東京慈恵会医科大学教授は「数値はひとつの目安であり、薬よりは生活指導に重きを置いた」と振り返る。

同学会は10年にガイドラインを改訂。痛風関節炎または指やくるぶしなどにこぶができる痛風結節の患者のほか、腎臓障害や高血圧、糖尿病などの合併症がある患者でも、医者は投薬以前に生活指導をするという項目が新たに入った。
ガイドライン改訂委員長を務めた東京女子医科大学膠原病リウマチ痛風センターの山中寿所長は「(医者も患者も)すぐに薬に頼る風潮をけん制するのが狙いだ」と話す。

ただし、患者の中には健全な生活習慣をしていたり、尿酸値が低かったりするのに発作が起こる人もいる。
その場合は、まず発作を抑える薬のコルヒチンやステロイドを使ったうえで、尿酸の合成阻害剤や排出促進剤を服用することになる。
患者の体質によって治療方針は違うので、医者は患者の状況を個別に把握する必要がある。

痛風の治療情報などを患者に提供する痛風財団理事長である理化学研究所ゲノム医科学研究センターの鎌谷直之センター長は「多くの痛風遺伝子が見つかっており、これらが組み合わさって体質の違いを生み出すと考えられている」と説明する。

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■98%を再吸収
普通の人の血液には約1200ミリグラムの「尿酸プール」が存在する。
体内で生産される量は毎日約700ミリグラム。
このうち500ミリグラムが尿中に出され、200ミリグラムが汗や消化液に排せつされる。
一方、人間は尿酸を分解する酵素を持たず、腎臓の糸球体でいったん血液からろ過されても、尿細管で98%が再吸収される。
有害な成分ならば、こんなことにはならないはずだ。

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そこで最近注目されているのは、尿酸の抗酸化物質としての役目だ。
炎症時にできるスーパーオキサイドや一酸化窒素などの活性酸素の消去剤として知られる。
働き盛りの男性の尿酸値が高い一因ともみられ、東京工科大学の山本順寛教授は「体にとって有用な尿酸を捨てるのはもったいない」と言う。

痛風は以前には裕福な人に特徴的な「ぜいたく病」と見なされていたが、生活レベル全般の向上により、男性なら誰でもかかりうる病気になった。
心当たりのある人は尿酸値の上下に一喜一憂するのではなく、食事・飲酒・運動など生活習慣全般を見直すことが重要だろう。(池辺豊)

出典 日経新聞・夕刊 2011.11.11
版権 日経新聞


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