[がん共生時代]生活の質(1) 腸閉塞も腹腔鏡で治す

胃や大腸、子宮のがんなどの手術でおなかを開けると、手術後に腸が腹部のあちこちにくっつく癒着が起きる。
ねじれ、細くなった腸に食べ物が詰まり、痛みや吐き気、おなかの張りを伴う腸閉塞の原因となる。

東京都の会社員、小田美保子さん(57)は1994年、卵巣がんが見つかり、開腹手術で子宮や左右の卵巣、リンパ節を切除した。
がんは取り切れたものの、3年後ころから、強い腹痛と嘔吐(おうと)が数か月に1度起きるようになった。

手術を受けて5年目、激しい腹痛が襲った。
痛みと嘔吐に苦しみ、脂汗をかきながら布団を転げ回ったが、2日たっても治まらず、救急で入院した。

腸閉塞の治療は、絶食絶飲して、自然に排便されるのを待つしかない。
小田さんは1週間後、退院の帰り道に好物の焼き芋を買って食べたその夜、再び痛みが襲い病院にとんぼ返りした。
詰まりやすい繊維の多いイモや海藻は以来お預けとなった。
その後も数か月に1度、腸閉塞を起こした。

癒着は、小腸が空気にさらされ、動きが数日止まるため起きる。
癒着をはがそうと再び開腹すれば、新たな癒着の原因となるため、根本的な治療はなかった。

そこで北里大学外科の渡辺昌彦教授は、「開腹しない腹腔鏡手術なら、癒着が起こりにくいのではないか」と、10年以上前から、腸閉塞の腹腔鏡手術に取り組んでいる。

腹部に3~5か所5~10ミリ程度の穴を開け、そこから小さなカメラとはさみなどを入れて、おなかの中を見ながら癒着の膜を慎重に切り離していく。

小田さんは、かかり付け医の紹介で2010年5月、渡辺さんの手術を受けた。
小腸のあらゆる部分がべったりと癒着し、がんじがらめになった腸が細くなり、複雑に曲がっていたのを、6時間かけてはがした。

以来一度も再発していない。
根菜類も気にせず食べ、「痛みにおびえない生活を取り戻せた」と喜ぶ。

渡辺さんは、腸閉塞の腹腔鏡手術を60例近く手掛け、再発は2例だった。
数日の入院で済み、高齢の患者でも安全にできる。

ただ、時間と手間がかかる割に、開腹手術と同じ保険点数であることや、腹腔鏡で癒着をはがすのは難しく危険という考え方が根強いことが普及を妨げているという。
渡辺さんは「すべての患者で可能というわけではなく、よく医師と相談してほしい」と話す。

出典 YOMIURI ONLINE yomi.Dr. 2011.11.25
版権 読売新聞社

<私的コメント>
文中の「癒着は、小腸が空気にさらされ、動きが数日止まるため起きる。」の「空気にさらされ」という意味がよく分かりませんでした。
これは結局手術中のことを言っているのだ、ということが読み返してみて分かりました。
開腹手術後の腸閉塞の予防には、漢方薬の大建中湯が有名です。

<参考>
開腹手術後の腸閉塞を予防する大建中湯
http://blog.goo.ne.jp/kfukuda_ginzaclinic/e/24ce9d050eba81fcad793d25c6a1f030


<自遊時間>
昨夜TVでツチノコの話をしていました。
同じ内容がブログで見つかりました。
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