先天性心臓病、「成人後」に死角

生まれつき心臓病を持つ子どもたちが大人になった時、かかれる病院がない――そんな問題が浮かび上がってきた。
推計で40万人を超えるが、受け入れ態勢が整った大人の病院は、全国にわずかしかない。
医療体制をどのように整えるか、模索が始まっている。

対象者40万人、診療体制万全14病院のみ
奈良県の会社員藤岡良幸さん(37)は2002年秋、仕事中に呼吸困難になり、職場のトイレで倒れた。
心臓の中にできた血栓が肺の動脈に飛んで詰まっていた。
すぐに救急車で近くの病院に運ばれたが、「うちではよくわからない」と言われ、県内外の病院を3カ所転々とした。
 
藤岡さんは生まれつき、心臓の右心房と右心室の間の弁が閉じていて、9歳の時に手術を受けていた。
血管をつなぎかえ、右心房から直接肺に血液を流しており、血液の流れ方が普通の人と違った。
 
この日は結局、昔手術を受けた大阪府の国立循環器病研究センターへ、県境をまたいで救急搬送された。
 
「困ったら、近くの大きな病院に行けばいいと思っていた」と、藤岡さんは当時を振り返る。
 
心臓そのものの形が複雑な先天性の心臓病と、脈の乱れなどの不調が起こる後天性の心臓病は、病気の性質が異なる。
これまで、前者は子どもの病院が、後者を大人の病院が、それぞれ中心になって担ってきた。
 
ところが、医療技術が進んだ1990年代以降、重い先天性の心臓病の子どもたちも、命を救えるようになってきた。
今は、複雑な形の心臓を持って大人になる人が、年々増えている。
 
大人の病院は、複雑な形の心臓の治療に慣れていない。
少し壁に穴があるだけでも「経験が少なく、分からない」とある循環器内科医は話す。
一方で子どもの病院には年齢制限があり、生涯かかり続けることは難しい。
両者の連携は、これまで進んで来なかった。
 
全国心臓病の子どもを守る会の下堂前(しもどうまえ)亨事務局長は「大人になって、どこの病院にかかればよいか分からないという相談がここ数年増えている」と話す。

●複数の診療科が地域連携を
厚生労働省の研究班は09~11年度、大人になった患者に十分な医療を提供できる病院が全国にどれくらいあるかを初めて調べた。
大学病院など138施設にアンケートし、医師の人数や病院設備、治療実績などに加え、受け入れの「意向」についても尋ねた。
109施設(79%)から回答があり、欧米の基準に照らして分析した。

その結果、一つの病院内に大人と子どもの医師がそろい、産科や集中治療室など関連の設備も整っていて、重症度の高い患者を受け入れる意向もある、などすべての項目を満たす病院は14カ所のみ。
うち6カ所は関東地方に集中し、四国と北海道はゼロだった。

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研究班の八尾厚史・東大循環器内科特任講師は「このままでは、患者さんがきちんとした医療を受けられなくなる」と、危機感を募らせる。
 
今回の結果をもとに、研究班では今後、受け入れ態勢の整った病院を中心に、地域で医療の連携ができるネットワーク作りを進めていく予定という。

 
主任研究者の白石公・国立循環器病研究センター小児循環器部長は「患者さんが安心して医療を受けられるよう、複数の診療科が連携する体制作りを目指す」と話す。 (鈴木彩子

出典 朝日新聞・朝刊 2012.3.22
版権 朝日新聞社



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