狭心症 細い血管で起こることも

胸の痛み長く続く 更年期の1割が発症 診療時、性差の視点大切に

心臓の血管が狭くなって胸の痛みが生じる狭心症心筋梗塞は男性に多い病気とされてきた。
ところが、更年期の女性の約1割がかかる狭心症があることは意外に知られていない。
胸などの痛みが長時間続くのが特徴で、治療法も通常とは異なる。
命に直接関わらないが、生活の質の低下を招く原因になる。
何かおかしいと思ったら早めに病院の循環器科や女性外来を受診してほしい。

千葉県佐倉市に住むA子さん(62)が胸の痛みを感じたのは4年前。
「朝方に長くて細い感じの痛みが起きた。短い時は30分程度、長いと1日痛んだ」。
そこで、近所の病院の循環器科を受診し、心電図のほか、カテーテルと呼ばれる細い管を使って心臓に血液を送る太い冠動脈の状態を調べる検査もしたが、異常は見つからなかった。

◇診断は難しく
胸の痛みが取れないため、血管を広げる作用があるニトログリセリンを処方されたが効かなかった。
「痛みがひどくて眠れず、耳鳴りや頭痛にも悩んだ」。
A子さんの訴えに、医師は精神科を一度受診するよう勧めた。

結局、「微小血管狭心症」と診断がついたのが2年後。
心臓の筋肉にある細い血管が収縮しやすくなり、胸やあご、背中の痛みなどを引き起こす病気にかかっていた。
A子さんは適切な治療で痛みもほとんどなくなった。
<私的コメント>
この記事では「診断がどのようにしてついたか」ということと「適切な治療がどのようなものであったのか」という説明がされていません。
一番知りたいことが欠落しています。

一般の狭心症は男性に多く、冠動脈が硬化して狭くなったり、けいれんしたりして血流が悪くなり胸に痛みが出る。
これに対し、微小血管狭心症は女性の中でも特に更年期に多い。
血管を広げる女性ホルモンであるエストロゲンの量が閉経で減り、心臓の細い血管が収縮しやすくなるのが原因と考えられている。

この病気が米国で報告されてから20年以上たつが循環器専門の医師でも詳しい人は多くない。
A子さんのように診断がつかずに、複数の医療機関を渡り歩く人が後を絶たないという。

その理由のひとつが診断の難しさ。カテーテルを使った血管造影検査では細い血管は映りにくい。
心電図に異常が出るケースも少ない。

ただ、これまでの研究で病気の特徴は分かっている。
就寝中など安静時に起こりやすいことと、痛みが長引くことだ。
10分から場合によっては数時間、ひどいケースでは1日中痛む場合もある。
また胸の痛みを感じても、逆流性食道炎だったり、更年期障害だったりするケースも少なくない。
磁気共鳴画像装置(MRI)などを活用し、血流の変化から病気を確定する検査方法の確立を目指している医師もいる。

治療も一般の狭心症とは異なる。
ニトログリセリンは細い血管を広げる作用が弱いため、カルシウム拮抗薬というタイプを投与する。
約9割で胸痛がなくなるという。
うつ病などに用いる漢方薬が効く患者もいる。

微小血管狭心症は予防するのは難しいが、痛みを引き起こしかねないストレスや疲労をなるべくためないなど日常生活に気を配りたい。

◇閉経後、リスク高く
女性はエストロゲンに作用で血管が守られているが、閉経後に減ってしまうと、男性と同じタイプの狭心症心筋梗塞になるリスクが急速に高まる。
男性より5~10年遅れて発症するといわれており、女性は70歳前後からリスクが高まり、80歳以上の死因ではむしろ男性を上回っている。

また、閉経前でもたばこを吸っていたり、糖尿病を発症していたりすると動脈硬化が進む危険性もある。

さらに、女性が心筋梗塞を発症すると、重症化しやすく死亡率が高いことが分かってきた。
国立循環器病研究センターの心臓血管内科部門グループが、全国27の医療機関の協力を得て調べた成果だ。
2005~09年に心筋梗塞を起こして24時間以内に入院した男女2714人の中で、亡くなった人の割合は男性が5%だったのに対し、女性は12.4%と2倍以上だった。

女性は発症しても医療機関を受診するまでの時間が男性より1時間遅かったという。
胸の中心を針で刺す痛みという典型的な症状が女性には表れにくく、危険に気づくのが遅れるからだろうと推測されている。
腕がだるい、息が苦しい、喉が締め付けられるといった訴えが多く、命に関わる病気と思わないケースが少なくないようだ。
女性は男性より冠動脈が細くて広がりにくいことも関係している可能性がある。

従来、医療現場では男女同じ病名なら、症状も治療も同じだとする考え方が主流だった。
しかし現在では、性差によって病気のなりやすさや治療法が異なる例もあるという考え方が広がりつつある。
女性外来や男性外来などを設ける医療機関も増えている。
心の問題も含めて、診療に性差の視点を取り入れていくことがますます重要になっている。
  (吉野真由美
出典 日経新聞・夕刊 2012.3.23(一部改変)
版権 日経新聞



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