遺伝性がん、検査し予見

乳がん、早期発見で治療に選択肢 卵巣がん、予防切除も

女性の二十数人に1人が発症するといわれる乳がん
このうち、5~10%程度は、遺伝の影響を強く受けたタイプと考えられている。
「遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)」と呼ばれる。
最近は、カウンセリング態勢を整え、遺伝子の検査を受けられる病院も増えている。


HBOCは、BRCA(ビーアールシーエー)1、BRCA2という二つの遺伝子の変異と密接な関係がある。海外の複数の調査を分析すると、BRCA1に変異があると約4割の人で、BRCA2の変異では約1割で、70歳までに卵巣がんになるリスクが高まるという。
乳がんリスクは、BRCA1で約65%、BRCA2で45%だ。
男性でも、乳がん膵臓(すいぞう)がんなどのリスクが高まる。

この遺伝子に変異がないか調べる検査は、公的医療保険の対象外で現在は二十数万円かかる。
検査会社ファルコバイオシステムズ(京都市)によると、国内では昨年末までの8年弱で、研究も含め、約500件の検査が行われたという。

HBOCの可能性があると分かれば、専門医がいる病院では、医師や認定遺伝カウンセラーが、遺伝カウンセリングの外来で患者の相談に応じる。
治療の選択肢のほか、遺伝情報の意義や取り扱いの注意点なども示される。

がん研有明病院(東京都)の新井正美・遺伝子診療部長は「がん予防につながる対策を示し、患者さんの意思を尊重する。情報管理は細心の注意を払う」と話す。

遺伝子の変異があった場合、乳がんは早期発見が可能で、いくつか治療の選択肢があるが、卵巣がんは自覚症状が出にくく、治療が難しい例が少なくない。

3カ月~半年おきに検診を受けるほか、がんのリスクを減らすことを目指して、健康な卵巣を手術で切除することも選択肢のひとつになる。
国内でも一部の病院でこの手術を行っている。
ただし、公的医療保険が適用されず、自費で80万~100万円近くかかる。

中村清吾・昭和大学教授(乳腺外科)は「この手術はまだ実施例がごくわずかだが、将来はリスクがある患者さんの選択肢になりうる。
まず、HBOCについて広く知ってもらい、がん予防につなげたい」と話している。

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●遺伝子調べたら陽性、「前向きに」全摘を決断
姉を4年前に卵巣がんで亡くした東京都の女性(43)は昨春、左乳房のしこりに気付いた。
姉に付き添い、神経質なほどがん検診を受けていた。それだけに衝撃だった。

病院で乳がんと診断された。家族の病歴を告げると、医師にHBOCの可能性を指摘された。
遺伝子を調べてもらうと、結果は「BRCA1遺伝子に変異あり」。
驚きも悲しみの感情もわかなかった。

乳房を全摘するか、温存するか、迷っていたが、「(再発リスクが高いという)検査の結果を、前向きに生かそう」と全摘することを決めた。
卵巣も取ってしまいたくなったが、主治医からは「焦らずに、落ち着いてからにしましょう」と諭された。
3カ月に1度、超音波と血液で卵巣がん検診を受ける。医師らの支えが心強い。

知人らが安易に「うちは『がん家系』なのよ」と話すのを聞くことがある。
「家族にがん患者が多くても、遺伝と関連が薄いがんもあるし、遺伝子レベルで調べると一人一人のリスクは違う。遺伝性のがんを正しく理解して欲しい」

出典 朝日新聞・朝刊 2012.4.3
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