臭覚障害とは

1万種以上のにおい、人間はかぎ分け
2004年度の自然科学系のノーベル生理学・医学賞は、五感の中の一つである「におい」を哺乳類が感じる仕組みを解明した米・コロンビア大のリチャード・アクセル教授と米フレッド・フレッド・ハッチンソンがん研究センター部長のリンダ・B・バック博士に授与された。
世の中ににおいをもつ物質は40万種類以上あるとされているが、人間の嗅覚は約1万種類のにおいをかぎ分けられるといわれている。

五感の中で嗅覚の研究は実験しやすい視覚や聴覚などに比べると遅れている。
におい物質は、鼻腔の奥にある嗅細胞の繊毛表面の受容体でキャッチされる。
人間では約350種類ある受容体だが、一つの嗅細胞は1種類の受容体だけを持つ。
ただ一つの受容体に似た構造をもつにおい物質を検知することができるといわれている。

匂いを感じとった嗅細胞は同じ受容体をもつ細胞同士で、大脳の底にある嗅球の「糸球」に情報が集められる。
これはさらに大脳へ伝えられると、感情や記憶などの複雑な脳の働きとして保存される。

匂い分からないと生活で危険も
以上がざっと匂いを感じる仕組みである。
しかし、同じ匂いを嗅いでいる時間が続くと、慣れの現象が起きて、その匂いのする部屋にいる人は匂いを感じなくなる。
外からその部屋に入った人は敏感に感じるので、その人が元からいた人に何か変じゃないかと忠告するのである。

ガス漏れで一酸化炭素を吸引して死んだ双子の6歳の女の子の不幸な死を家庭医の私は経験したことがある。
夜ガスストーブをつけて密室で勉強し、そのまま寝込み、トイレに行きたい一人がガスストーブの管に躓いて管が外れたのを知らずに二人とも熟睡し、早朝母親が室内に入ったら、二人共にガス中毒で死んでいたという事故を私は思い出す。

嗅覚にはガス漏れや異臭の感知など生活の安全に関係するものと、食品や花などの香りに関係するものがある。

嗅覚が職業上必須の方については仕事が継続できるか否かの生活問題にも強く関わるのである。

「味」は味覚と嗅覚複合したもの
病院の外来に、匂いをかいでも感じなくなったとか、別の匂いのように感じる(臭覚錯誤、または異臭症)と言う患者が病院の外来に来る。
味が薄くなったとか、味が変になったなどの味の問題を訴えて患者が来る時、舌の表面で感じる味覚は嗅神経とは別の神経によるのである。
これは嗅覚が低下して味嗅が直接障害されるわけではない。
一般に私たちが「味」と感じている感覚は、実は味覚と嗅覚の複合されたもので、マツタケとかキノコなどが添えられる料理はわずかな薫りでも味が新鮮に感じられ、食欲を増させるものとなる。

鼻をつまんで食事をすると、料理の塩辛い、甘いなどは分かるが、何の料理かわからなくなる。
嗅覚が障害されるだけで食べ物の味が変化する。これを風味障害と呼んでいる。

匂いなくなる一番の原因、副鼻腔炎によるもの
匂いのなくなる一番多い原因は副鼻腔炎による呼吸性嗅覚障害である。
この場合、嗅粘膜に至る気流が、粘膜の腫れやポリープなどで妨げられると、においの神経が鈍感になる。
これは呼吸性嗅覚障害と呼ばれる。
これは慢性的な副鼻腔洞炎や鼻炎で起こる。
鼻粘膜にウィルスが感染すると、嗅神経が障害される。

出典 YOMIURI ONLINE yomi.Dr. 2012.4.11
版権 読売新聞社

<私的コメント>
先日、風邪を引いて来院した30代の女性。
「先生、風邪を引いてからにおいが分からなくなりました」。
においが分からないと味覚もおかしくなるということを知っていたので「味もおかしいでしょ」と聞きました。
「味はばっちりです」という返事。
「少しはおかしい」と答えて欲しかった。

<追加>
鼻腔に入ったにおいのもとの物質は、一部が鼻腔の粘液に含まれる酵素によって別の物質に変換される。

東京大大学院農学生命科学研究科の東原和成教授らが2010年4月までに行ったマウスの実験で分かった。
脳で感じるにおいは、におい物質そのものと、この酵素で変換された物質の混合物の場合があると考えられる。
東原教授によると、この粘液は本来、におい物質を嗅覚の神経細胞にあるセンサー(受容体)に運んだり、有害なにおい物質を分解したりする役割がある。
酵素の量は年齢や性別のほか、体調によって異なる可能性があり、人間の場合でも、においの感じ方の違いの一因になっているかもしれないという。
実験はアーモンドや香辛料のクローブのにおいを使って行った。
研究成果は米科学誌ジャーナル・オブ・ニューロサイエンスに掲載された。

よい例に納豆がある。
人によってはただ単に臭い匂いかもしれないが、人によっては食欲を増加させる匂いとなる。

香水の香りも同様かも知れない。
嫌な女性がつけていると、高い香水も男性にとっては嫌な香りに感じてしまうかも知れない。

自分のおならの匂いは我慢出来る。
これは別の話?


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