かゆみ

かゆみって何? 進むナゾ解明

花粉が飛び交う今の季節、かゆみに悩まされる人も多い。
なんともいえない不快感だが、メカニズムの解明が進んでいる。
一時的にかゆみを忘れさせてくれる「裏技」や、かゆみのタイプ別に対処法も分かってきた。

愛知県岡崎市にある自然科学研究機構には、世界初の「かゆみ発生装置」がある。
手首に切手大の電極を付けてもらい、スイッチが入ると手のひらが軽くしびれたような感じがし、続いてチクチクするセーターを着た時のような無性にかきたくなる感覚がわいてきた。
皮膚の表面のごく浅いところにだけ届く微弱な電流がかゆさを引き起こす。

紛らわせる手段も
「かきたくなる感覚」。
かゆみの定義はこう表現するしかない。治りかけの傷がかゆいと感じることもあり、かゆみは弱い痛みだとされたり、痛点や温点のような「かゆみ点」は皮膚に存在しないといわれたりしてきた。
だが、探すとちゃんと「点」も、伝達速度はとても遅いが感覚を脳に伝える「かゆみ神経」もそろっていた。

脳でもかゆみは独立した感覚として認識されている。
かゆみ発生装置でかゆさを感じている男性10人の脳の中を磁気共鳴画像装置(MRI)で観察すると、全員の大脳の楔(けつ)前部に特徴的な反応が見つかった。
痛みでは反応しない部分で「かゆみ中枢かもしれない」と装置開発者の望月秀紀・特任助教はいう。

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かゆみもれっきとした1つの感覚であることが分かってきたが、ゆっくりと脳に届くということは感覚の中で優先順位が低い証拠。
実は脳は一度に2つ以上の感覚が入ってくるとさばききれない。
身の危険にかかわる痛みや熱さ、冷たさの方が当然、感じやすい。

この仕組みを利用すると、かゆみを消す「裏技」が可能になる。
かゆみ発生装置でかゆくなっていた人に保冷剤を渡すと、かゆみは不思議と消える。
確かに脳でもかゆみは感じていないことが確認できた。
「蚊に刺された跡をつめで強く押すのは、痛みの利用で実は理にかなっている」(望月特任助教

かゆみに苦しめられる人はたくさんいる。
「痛みは我慢できるが、かゆみは無理だ」と、両方に悩まされる人は痛みよりも苦痛と訴えるほど。
この不快な感覚がどうして人間の体に備わっているのだろうか。
順天堂大学浦安病院の高森建二院長は「体のバランスがどこか崩れていることを知らせる大事な警告」と説明する。

かゆみを引き起こす主犯はヒスタミンという物質だ。
花粉などの異物の刺激で皮膚の表面すぐ下で放出され、神経を刺激する。
皮膚は体の組織のなかで外界と常に接するバリアで、健康を脅かす外敵がすぐ近くまで来ているという合図がかゆみだ。

しかし、ヒスタミンが原因のすべてというわけでもない。
年をとると皮脂が減り、皮膚の表面がカサついてかゆくなるが、抗ヒスタミン剤は効きにくい。
乾燥によるかゆみに悩む人の皮膚を高森院長が実際に顕微鏡で調べてみたら、乱れてすき間ができて異物が入り込みやすくなった皮膚の表面に神経はわざわざ近づくように広がっていた。

こうなると、いつも神経に刺激が伝わり、洋服がちょっとこすれただけでもかゆい。
保湿剤を塗って皮膚をしっとりさせると、表面の乱れも落ちついて神経も元の位置に戻る。

気持ちよさと対に
こうした敏感な状態を紫外線をあてれば解消できることも最近わかってきた。
アトピー性皮膚炎の治療に専用の紫外線照射装置を使う医療機関もでてきた。

ただ、皮膚の異常とは違った理由でもかゆくなる。
肝硬変や腎不全、人工透析甲状腺の疾患などでは、なぜか脳内のかゆみを抑える作用が弱まり、全身がかゆくなることが知られている。

かゆくてかき続けると、不思議と今度は気持ちよさを感じるようになる。
ラソン選手が走りながらふわーっとした幸福感に包まれる「ランナーズハイ」を引き起こす物質が皮膚でも出るという。
なぜ不快さと気持ちよさとがセットになっているのかはわかっておらず、かゆみを巡る謎はまだ多い。
(鴻知佳子)

ひとくちガイド《インターネット》
◆子どものかゆみなどさらにかゆみについて知るには
 「かゆみナビ 皮膚とアレルギーの情報サイト」
◆透析に伴うかゆみと、薬についてマンガで理解するなら
 「マンガで学ぶ 透析そう痒症のケア」
出典 日経新聞・朝刊 2012.3.25
版権 日経新聞


<参考記事>
かゆみは痛みとは違う脳の特定の部位で反応していることを、自然科学研究機構生理学研究所(愛知県岡崎市)の柿木隆介教授(神経内科学)らが解明し、米国神経生理学雑誌電子版に掲載された。
柿木教授は「かゆみは痛みとは違う独立した感覚」と説明している。

かゆみだけを刺激する装置で実験し、成人男性10人の手首に電気の刺激を与え、脳の内部を観察した。脳内側の中央の後ろの部位「頭頂葉内側部(楔前部=けつぜんぶ)」が、かゆみだけに反応して活動しているのを発見した。

これまで、かゆみは軽い痛みの感覚で、かゆみと痛みの脳内の反応は同じという説があった。
実験の結果、かゆみと痛みの脳内の反応は似ていたが、かゆみだけに反応する部位が見つかり、かゆみの脳内のメカニズムの解明につながりそうだ。
アトピーなどのかゆみの治療は塗り薬や薬剤注射が知られている。
今後、かゆみだけに反応する脳の部位の活動を抑える飲み薬など、新しい治療法が期待されるという。【中村宰和】

出典 毎日新聞 2009.9.25
版権 毎日新聞社


<自遊時間>
宇宙の加速膨張裏付け 東大
東京大学の大栗真宗特任助教らは、銀河の重さで空間がゆがんで光が曲がる「重力レンズ効果」を使い、宇宙の膨張が加速していることを確かめた。
この現象は超新星の観測で見つかり、2011年にノーベル物理学賞を受けた。別の手法でも確認できたことから、加速の源とされる正体不明の「暗黒エネルギー」が存在する可能性が高まった。

遠方にある天体クエーサーの手前に銀河があると、重力レンズ効果でクエーサーが複数に分裂して見える。
宇宙の膨張が加速していれば、地球からクエーサーまでの距離が延び、その手前に重力レンズを起こす銀河が重なりやすくなる。

10万個のクエーサーを調べ、約0.05%で重力レンズ効果を見つけた。
この割合は膨張が加速していないとありえない数字だという。

宇宙の加速膨張は宇宙論研究の最重要テーマの1つ。
加速の原動力は暗黒エネルギーとされ、これまでの観測結果から、全宇宙を構成する成分の7割を占めるとされる。

出典 日経新聞・Web刊 2012.4.15
版権 日経新聞


宇宙の膨張加速、観測で確認 3氏にノーベル物理学賞
スウェーデン王立科学アカデミーは、2011年のノーベル物理学賞を米カリフォルニア大学バークリー校のソール・パールマッター教授(52)、オーストラリア国立大学のブライアン・シュミット特別教授(44)、米ジョンズ・ホプキンス大学のアダム・リース教授(41)に授与すると発表した。
宇宙が正体不明の力によって、加速しながら膨張を続けていることを観測で確かめた。
■宇宙はこれまでどう進化し、将来はどうなっていくのか。
この謎を解明するため、3氏は高性能の望遠鏡を使い遠方にある超新星を観察した。
超新星は星が寿命を終えるときに光り輝く現象。
ピーク時の明るさが一定のタイプの超新星を利用すれば、はるかかなたの宇宙と地球との距離を調べられる。
■得られたデータを分析した結果、宇宙はすさまじい勢いで加速しながら膨張していることがわかった。宇宙の膨張は以前は減速しつつあると思われていたが、3氏らの発見により定説は覆された。
このまま膨張が進めば宇宙は冷え込んでいくという。
■引力に逆らって膨張を加速する原動力は「暗黒エネルギー」と呼ぶ正体不明の力と考えられている。宇宙はこの未知のエネルギーで満ちあふれていると考えられるようになり、研究が進んでいる。

出典 日経新聞・Web刊 2011.10.4
版権 日経新聞


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