食物繊維 食べ方の新常識

食物繊維「とにかくとる」は健康効果乏しく 食べ方の新常識

野菜などに含まれる「食物繊維」は、便秘対策のほか様々な生理作用をもつ。
摂取量が減った日本では、大腸がんなどの発症リスクを高めているとされるが、どうやら闇雲に食べても効果は乏しいらしい。
いったい、どのようにして、どれくらいの量の食物繊維をとればよいのだろうか。

「食物繊維を多く含む料理は、食事中に満腹感が出やすくなり、食物中のコレステロールの吸収を抑える働きもある。肥満や糖尿病、動脈硬化、大腸がんなどの予防に役立つ」

こう力説する日本食物繊維学会理事長の奥恒行・長崎県立大学名誉教授は「食物繊維を毎日20~30グラム摂取すべきだ」と唱える。
特に、同30グラム以上をとった場合、大便の量が増えて排便がスムーズになり、体調を維持する効果が大きいと付け加える。

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摂取量少ない若者
米飯を主食とする日本人はもともと、自然に食物繊維を口にしていた。
1950年代半ば、大人の平均摂取量は1日当たり22グラムほどあった。
ところが近年、コメをあまり食べなくなる一方、肉類など食物繊維の少ない食品の比率が高まり、同14~15グラムと減少している。
若い世代の摂取量はとりわけ少なく、20~30歳代の男性で13~14グラム、女性で12~13グラムにとどまる。

これが大腸がんや動脈硬化を発症する人の増加を招く背景との指摘は、おおむね受け入れられている。
しかし、どれくらいの量を摂取するのが適切なのか、その基準ははっきりしていない。

食物繊維の摂取量と、大腸がんなどの発症との関係をつかもうと、世界で多数の市民の食生活を追跡する調査が実施されている。
これまで、たくさん摂取すれば予防効果が高いとするデータと、多く摂取しても効果はないとするデータが乱れ飛び、決着は付いていない。

日本では厚生労働省の2つの調査が、現在最も信頼できるデータを示した。
ひとつは大腸がんとの関係を調べた調査で「食物繊維の摂取量が非常に少ない人で大腸がんのリスクが高まる」結果を2006年に発表した。
もうひとつは循環器病(脳卒中と虚血性心筋症)との関係を調べた調査で「食物繊維の摂取量の多い女性で発症リスクは低い」という結果が11年に出た。

科学的な根拠はまだ乏しいが、国が目標とする食物繊維の摂取量は今のところ「大人で1日当たり20グラム摂取する」に落ち着いている。

 この目標値からすると、現代人はもう少し食物繊維をとってもよさそうだ。女子栄養大学の山田和彦教授は「コメの食物繊維の減った分を、野菜や果物などで補う必要がある」と強調する。奥理事長も「米国の菜食主義者は、毎日60~100グラムの食物繊維を摂取する。食物繊維をとりすぎてもなんら健康に弊害はない。現代人は多くとるよう努力すべきだ」と説く。

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サプリメント依存には注意
食物繊維はイモや豆類、キノコ、海藻などに多く含まれ、こうした食材を使ったメニューを選ぶといい。例えば、ヒジキの煮物なら小鉢(約10グラム)に5~6グラムの食物繊維が含まれる。
納豆1パック(約50グラム)も4~5グラムと多く、よく推奨される食材だ。

どうしても食物で十分に摂取できない場合、食物繊維が多く含まれる清涼飲料などで補うのもひとつの手だ。
野菜や果物などに含まれる分子の大きい食物繊維とは異なり、分子が小さい。
大きな分子の食物繊維と同様に、小腸で吸収されずに大腸まで達して整腸作用はある。
ただ「とりすぎると下痢を起こしやすくなる」(山田教授)ので注意が必要だ。

サプリメントなどでとる方法には問題点を指摘する声もある。
京都府立医科大学の石川秀樹特任教授は、大腸がんなどの腫瘍を内視鏡で取った患者に食物繊維の多い特殊なビスケットを食べるグループとそうでないグループに分け、4年後に再度検査した。
大腸がんの前段階となる腺腫ができた人は、ビスケットを食べない人の1.3倍に増えた。
がんになりやすい大きな腺腫で、その傾向が強かった。

米国と欧州での試験でも、食物繊維のサプリメントを食べると、腺腫の発生を促す結果が出た。
石川特任教授は「食物繊維のサプリメントは大腸がんを減らす効果は期待できないようだ。野菜などいろいろな食材から他の栄養成分と一緒にとるべきだ」と助言している。(編集委員 永田好生、草塩拓郎)

<ひとくちガイド>
◆食物繊維を健康食品に生かす大塚製薬の一般向けガイド「食物繊維を摂ろう」http://www.otsuka.co.jp/health/fiber/

出典  日経新聞・朝刊  2012.4.29
版権  日経新聞


食物繊維[ dietary fiber ]とは
食物中の繊維質のこと。
小麦やリンゴ、コンニャクなどに多く含まれ、セルロースやリグニンといった物質で構成される。
腸内で水分を吸収し便を軟らかくするなど排便効果がある。
合成食物繊維のポリデキストロースを配合した清涼飲料「ファイブミニ」のヒットで一躍知名度が高まった。
糖尿病の予防などの効果もあるとの研究結果も出ており、血糖値の上昇を抑制するという食物繊維入りの飲料や食品も登場している。


<関連サイト>
食物繊維の働き
http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy/archive/2010/09/13


<関連記事>
食物繊維、脳卒中予防に効果 喫煙すれば打ち消し
食物繊維をとれば脳卒中や心臓病のリスクを抑えられるが、たばこを吸うと効果は打ち消しになる――。国立がん研究センターと国立循環器病研究センターが成人男女約8万7000人を対象に約10年間追跡した調査でこんな結果が出た。
喫煙の影響は、肺がんなど呼吸器系の病気にとどまらないことが改めて浮き彫りになった。

研究班は岩手、長野、沖縄県などの45~74歳の男女を2004年まで約10年間にわたって追跡調査。
食物繊維の摂取量と脳卒中、心臓病の発症リスクとの関係を調べたところ、女性では食物繊維の摂取量が多いほど脳卒中などの発症が抑えられた。
食物繊維の摂取量が上位2割のグループの発症リスクは、下位2割に比べ35%低かった。

研究班は食物繊維が消化器内で膨らみ、満腹感が出て食べ過ぎを抑えたり、コレステロールの排出を促したりしたことで、脳卒中の原因となる高血圧症にかかるリスクが減った可能性があるとみている。

ただ、男性では食物繊維の効果はみられなかった。男性の喫煙率が高く、血管収縮や動脈硬化などを通じて脳卒中や心臓病のリスクが高まり、食物繊維の効果が打ち消されたと予測している。

循環器病研究センターの小久保喜弘医長は「食物繊維には循環器病の予防効果があるが、健康のためにまずは禁煙を優先すべきだ」と分析する。

出典  日経新聞 Web刊 2011.8.4
版権  日経新聞