眠りすぎはよくない?

十分な睡眠」に個人差  体内時計は年齢で変化

最近、睡眠研究が大きな成果を挙げている。睡眠不足が糖尿病などさまざまな病気のリスクを高めることが科学的に証明され、同時に睡眠の取り方は年齢変化や個人差が大きく、それが睡眠トラブルの原因になっていることも分かってきた。
日本人の3人に1人が、睡眠になんらかの問題を抱えているといわれる現代。
自分のための睡眠改善法を見つけるコツを専門家に聞いた。

健康のために十分な睡眠を――。
疑いようのない常識と考えられてきたが、じつは、これまで睡眠時間と健康についての科学的な研究はほとんどなかった。
しかし、2000年以降になって、重要な論文が次々と発表されるようになった。

日本大学医学部精神医学系の内山真主任教授は、「結論からいえば睡眠は重要だが長く眠るほど健康的なわけではなかった」と話す。
例えば、米国在住の男性1139人を16年間追跡調査し、糖尿病発症について調べた研究では、1日に7時間眠る習慣の人がもっともリスクが少なく、それ以上長くても短くてもリスクが高まることが分かった。

また内山主任教授の研究グループは、国民健康・栄養調査(2003年)のデータを分析、高脂血症のリスクが低いのは6時間台で、それよりも短くても長くてもリスクが高まったという結果を得た。
内山主任教授は「この他の研究報告をみても、成人の場合、最適な睡眠時間は6~8時間の間にあると考えられる」と話す。
極端な短時間睡眠や眠りすぎは、体のどこかに負担をかけているのだ。

イメージ 1



子どもに目配り
では、必要にして十分な睡眠を取るためにはどうしたらいいのか。
睡眠研究のもうひとつの重要な成果は体内時計に関するものだ。
熊本大学発生医学研究所の粂和彦准教授は「最近の研究で、微生物を含めほとんどの生物が時計遺伝子を持ち、進化とともに複雑なシステムを持つことなどが分かってきた」と話す。
私たちが、昼間活動し夜になると眠くなるのも体内時計の働きだ。
ただ、人の体内時計は複雑で、その働き方は年齢とともに変化するとともに個人差もある。
そこに気付かないと効果的な睡眠改善はできない。

例えば、子どもは成人より睡眠時間が長い。
思春期前には9時間ぐらいが平均的な睡眠時間だが、25歳ぐらいまでに6~8時間へと変化する。
移行期間は、体内時計が非常に不安定で個人差も非常に大きい。
粂准教授は「睡眠時間が短くても大丈夫な子もいれば、耐えられない子もいる。弱い子どもは友達同士の夜間の携帯メールのやりとりなどで寝不足になり、学校に遅刻したり居眠りしたりする」と話す。

こうした兆候がある場合、両親は子どもの睡眠時間により念入りな目配りが必要だ。
また、最近、遺伝的な体質により体内時計が強固で、規則正しい就眠時間を必要とする人がいれば、多少、時間が変動しても対応できる人もいることが分かってきた。
頑固な体内時計の持ち主は、日ごろから規則正しい生活を送ることが体調管理に重要だ。


無理に床に入らず
加齢による体内時計の変化への理解も重要だ。
内山主任教授は「中高年以上になると、眠りは浅くなり、夜中に起きたり、朝早く目覚めたりするのが普通。
最近では団塊の世代でも祖父母と暮らしたことのない人が増えているため、自分の眠りの変化を不安に感じ、不眠症の原因になることもある」と話す。

例えば、もっと眠らなければと床に入っている時間を長くすると、逆に睡眠が浅くなり睡眠の満足感を損ねる。
あまり焦らず、眠くなるまで床に入らず、夜中に起きたらラジオの深夜番組を聞くといった、高齢型の睡眠生活をマスターする方が現実的なのだ。

もちろん極端な睡眠不足は、体調を崩す原因になる。
眠れなくて辛いと感じる日が2週間以上続く場合は、早めにかかりつけ医などに相談したい。
そして、医師などと相談しながら自分に合った睡眠スタイルを見つけることが、充実した生活を送るために大切だ。 (ライター 荒川 直樹)

出典 日経プラスワン 2010.6.26
版権 日経新聞


読んでいただいて有り難うございます。
コメントをお待ちしています。

他に
井蛙内科開業医/診療録(4)
http://wellfrog4.exblog.jp/
(H21.10.16~)
井蛙内科開業医/診療録(3)
http://wellfrog3.exblog.jp/
(H20.12.11~)
井蛙内科開業医/診療録(2)
http://wellfrog2.exblog.jp/
(H20.5.22~)
井蛙内科開業医/診療録 
http://wellfrog.exblog.jp/
(H19.8.3~)
(いずれも内科専門医向けのブログ)
「井蛙」内科メモ帖
http://harrison-cecil.blog.so-net.ne.jp/
http://harrison-cecil-lobe.blog.so-net.ne.jp/
(「井蛙内科開業医/診療録」の補遺版)
葦の髄から循環器の世界をのぞく
http://blog.m3.com/reed/
(循環器専門医向けのブログ)
「葦の髄」メモ帖
http://yaplog.jp/hurst/
(「葦の髄から循環器の世界をのぞく」の補遺版)
があります。