喘息の新吸入薬

気管支喘息の治療用として、昨年(2014年)の秋に新たな吸入薬が承認された。
ステロイドなど従来の吸入薬では効果が不十分な患者が対象で、呼吸機能をよくし、激しい発作を防ぐ効果があるという。
一方、従来の薬が患者に正しく使われていない側面があり、その改善が課題になっている。

「長時間作用性抗コリン薬」は気道を収縮させる神経の働きを抑える作用がある。
もともとは慢性閉塞性肺疾患の治療薬で、昨年11月に重症の気管支ぜんそくにも適応が広がった。
 
喘息は、白血球の一種が過剰に増えて気道に炎症が起き、気道が狭くなって呼吸が苦しくなる。
かつては発作に対する治療が主流だったが、現在は炎症を抑える吸入ステロイドを中心とした薬で日頃から発作を予防する治療に切り替わっている。
吸入ステロイドの普及に伴い、喘息による死者は減っている。
1995年は7千人を超えていたが、2013年には約1700人になった。
 
ただし、喘息の症状を完全に抑えられているわけではない。
吸入ステロイドを継続して使っている患者636人のうち、ぜんそくの症状が週1回以上ある人が約54%を占めたというデータもある。
 
新しい吸入薬は、このように吸入ステロイドなどの治療をしても症状が続く重症患者が対象になる。
臨床試験(治験)のデータでは、入院や緊急処置が必要な重い症状が出るリスクを約2割下げるなどの効果があったという。
 
長時間作用性抗コリン薬は、あくまでも補助的な薬。
喘息の治療は、吸入ステロイドが基本になる。
新しい薬を追加することで症状がよくなったからといって、ステロイドを患者が勝手にやめてはいけない。


従来薬も使い方注意
ぜんそくの治療では、従来の薬が患者に正しく使われていない課題がある。
吸入ステロイドなどの治験では、症状のコントロールが良好な状態になる患者が7割なのに、実際の治療では3割しかいないという。
この差の中には、正しく使えば十分に効果が得られる患者が含まれているとみる。

ある調査では、毎日の服薬が必要な慢性疾患の中で、高血圧などのほかの病気に比べて、喘息は半分程度の日数しか薬が使われていないという。
 
要因の一つには、吸入ステロイドやβ2刺激渠などの吸入薬の使い方がある。専用の器具で粉状の渠を吸い込むタイプで、渠の量を1回分正しくセットするには、器具の一部を回転させるなどの操作がいる。
こういった操作は高齢者にとっては難しい。
 
また、吸い込みがうまくできない患者もいる。
装置を口にくわえる前に息を吐き、くわえてから息を吸うのが正しい方法だが、くわえてから息を吐いてしまうことがある。
60代以上の患者の約3割が使い方を失敗していたという調査もある。
 
高齢者が薬を使い続けるのは困難が伴う。
簡単な治療法の開発や使い方の指導が必要である。

出典
日経新聞・朝刊 2015.3.31