内視鏡手術

内視鏡手術、早い回復 開腹より小さい傷  体制や技量に差

がんなどの摘出手術が必要になったとき、医師から腹腔鏡などの内視鏡を使った外科手術を勧められるケースが増えている。
傷が小さく、患者の負担が軽減できるからだ。
だが同じ手術でも、おなかや胸を大きく切る開腹手術とは、医師にとっても必要な技量などが異なる。
いざというときになって慌てないように、各手術の特徴などを知っておき、医師に十分な説明をしてもらってから受けよう。

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腹腔鏡手術は、先端にカメラがついた腹腔鏡と鉗子(かんし)やメスなどがついた手術器具を、おなかに開けた1センチメートル前後の複数個の穴に入れて、がんなどの病巣を取り除く。
医師は、カメラの画像が映ったモニターを見ながら腹腔鏡などを操作する。
15~20センチほどおなかを切る開腹手術に比べて傷口を小さくできるため、手術後の回復が比較的早い利点がある。
 
あるアンケート調査によると、手術後に事務仕事ができるようになるのは平均11日後。
1カ月ほどはかかる開腹手術の3分の1ほどの期間だった。
傷口が目立たなくなるほか、術後に卵管や子宮など臓器同士が癒着する確率が半分ほどで済むという利点もあるという。
癒着すると妊娠しにくくなる可能性が高くなる。
妊娠を望む世代にとっては手術を受けて、妊娠しにくくなる事態は避けたい。
20歳代後半から30代後半に多い子宮内膜症など婦人科系疾患では腹腔鏡の利用が手術の中心になっている。
 
内視鏡を使う手術は、婦人科系以外にも胃、食道、大腸などのがん、泌尿器系の疾患など多くの臓器の手術で実施されている。
 
胃がんの腹腔鏡手術の利点は、傷口を小さくできるほかに、出血量が比較的少ない点があげられる。
 
また、開腹手術に比べて臓器が空気に触れにくい。
術後の合併症のリスクを減らせ、患者の負担は大幅に軽減できる。
 
実際、内視鏡を使った外科手術の症例数は2013年で約18万件と10年前に比べて約3倍。
実施する疾患や対象となる臓器などの種類も増えている。
 
だが欠点もある。
視野が狭いモニターを見ながら実施するため、手術時間は開腹よりも長くなりがち。
がんなどでは取り残しなどのリスクも高くなる。
がんの硬さがわからないデメリットもある。
開腹すれば手で患部に触れて得られる情報が、内視鏡ではわからず、判断が難しい場合もあるという。
ただ、機器の性能や機能の向上も急速に進んでいるため、出来ることは増えている。
 
一方、「内視鏡による手術が過大評価されている」と、どんな手術でも内視鏡で対応出来つつあるという状況に疑問を持つ医師もいる。

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安全性や治療効果を見極めて判断し、肝臓がんについては腹腔鏡を使わずに、開腹手術を実施する施設もある。
肝臓は大きく、内部に多数の血管が走り、構造も複雑だ。
 
不測の事態が起きたときの対応が難しい臓器や疾患では、開腹手術の利点が大きいことが多い。
 
1990年代以降に医療現場に広がった内視鏡による手術は、開腹手術に比べて歴史が浅く、まだ発展途上の段階。
高い操作技術やスタッフを含めた十分な実施管理体制が不可欠だが、医師や医療機関によって技量や体制に差があるのも事実だ。
患者が判断する場合、手術実績などのほか、日本内視鏡外科学会が認定する専門医を参考にするとよい。
同学会では専門医をホームページで公表している。
 
コスト面も違う。
開腹に比べて内視鏡を使うと技術代などが増加しやすく、患者にとって治療費アップにつながりやすい。
負担軽減や入院期間の短縮に加えて、安全性や治療効果など、医師と十分に話して納得した上で選ぶことが重要だ。

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■画像共有 医師にも利点
内視鏡を使った外科手術は医師やスタッフにも利点が多い。
一方で、新たな訓練なども必要となっている。
 
手術室のスタッフが全員同じ画像を見られるのは利点でもある。
新人医師の指導にも効果的なほか、多くの人が監視するためミスの防止につながる。
 
最先端のシステムは、医師が見るモニター画面が3次元になり、画質も最先端のテレビと同じぐらい良いなど機能も進化し続けている。
私的コメント;
8K画面も使われているようです。

患部を拡大したり、明るくしてみたり、臓器の裏側にカメラを潜り込ませて従来の手術では見られない部分を観察できるのも内視鏡手術のメリットだ。
 
半面、器具などは日進月歩で改良が進むため、操作技術の理解や訓練などが不可欠で、習得すべき技術が多い。突然の大出血などの際に、開腹手術に切り替える対処法なども求められるため、医師などの負担も大きいといわれる。


まとめ
内視鏡手術
 メリット
  ・手術の傷が小さくて済む
  ・術後の痛みが軽い
  ・入院期間が短なる

 デメリット
  ・腫瘍の大きさや数によっては対応できない
  ・術中の出血で回復に切り替えることも
  ・隣接する臓器を器具で損傷することも


開腹手術
 メリット
  ・出血時に対応しやすい
  ・臓器の感触を手で確認できる
  ・複数の腫瘍や大きいものでも対応できる

 デメリット
  ・臓器が空気に触れやすい
  ・傷口が大きい
  ・術後の痛みが大きい


            
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出典
日本経済新聞・朝刊 2015.7.26 (一部改変)