希少がん

希少がん、もっと情報を 少人数かつ多くの種類、遅れる取り組み

患者が極端に少ない「希少がん」は、患者、医療側ともに情報が少なく、がん対策の中で取り組みが遅れてきた。
一方、国立がん研究センターが昨年、専用の相談窓口を設置、厚生労働省が今夏にも新たな方針を打ち出すなど動きも出ている。

患者会HP、心の支え
情報が少なく、どうすればいいかわからない――希少がんの患者や医師からのそんな相談に対応するため、国立がん研究センターは、昨年4月に「希少がんホットライン」を開設した。
希少がんセンターの看護師数人が交代で対応にあたる。
 
昨年は1200人から相談があった。
患者とその家族が各4割だが、医療者からも1割以上に上る。
 
主な内容は「主治医から的確な説明がなく、自分自身の病状を把握できない」「大きな病院へ連絡したが、診療は行っていないと言われた」など。
医療者からも「病理診断が難しい」「紹介先の専門病院が分からない」など、戸惑いの声が多かった。
 
希少がんセンターの、ある看護師は「医師や医療機関も自信を持って希少がんに対応できていない現状に気づかされる。希少がん患者を取り巻く環境の深刻さがうかがえる」と話す。
 
希少がん専用の相談窓口は現在、国立がん研究センターにしかない。
大阪や名古屋など国内数カ所に同じ体制のホットラインを設け、一定のエリアをカバーして対応することが望ましい。
 
一方、希少がんでは患者会の果たす役割も大きい。
数人規模のところが多いが、ホームページを活用して、悩みなどを打ち明ける掲示板、治療や学会の最新情報などを発信しているところもある。
 
膵臓がん患者を支援するNPO「パンキャンジャパン」は、10年から膵がんでもまれな「膵内分泌腫瘍」について、患者らを対象とした勉強会や治療薬の早期承認を国に求める活動などをしている。


■体制の強化、国も本腰
希少がんは、患者数は少なくても種類が多いため、がん患者全体に占める割合は小さくない。
海外の調査では、がん全体の2割を占めるという結果もある。
 
国も対策に動き出している。
厚生労働省が今年3月に立ち上げた希少がんの検討会では、正確な情報提供や診療体制、専門医育成のあり方などを議論。
専門領域を持つ多施設が連携して治療を進める「分業連携型」の取り組みも紹介された。
 
6月に示されたたたき台では、国立がん研究センターのサイト「がん情報サービス」を通して、診療実績や専門医のいる施設、患者団体、治験などの情報を提供することが盛り込まれた。
また、専門医の育成については国立がん研究センター以外にも一定数の患者が集まる施設を確保し、そこを中心に教育や育成を行う方針が示された。
 
厚労省は今夏にも検討会の議論を報告書としてまとめ、来年度予算に反映させる。
情報発信や新規の治療、薬剤の研究開発などが柱に挙がっており、厚労省のがん対策・健康増進課長は「患者の意向と報告書を踏まえた対策をしていきたい」と話す。


参考
希少がんの主な患者団体
名称 / 主な対象の病気
NPO「キュアサルコーマ」 / 成人の軟部肉腫(サルコーマ)
NPO「GISTERS」 / 肉腫の一種の消化管間質腫瘍(GIST)
NPO「脳腫瘍ネットワーク」 / 脳腫瘍。神経膠腫(こうしゅ=グリオーマ)、中枢神経系悪性リン
パ腫など
NPO「パンキャンジャパン 」/ 膵臓がん
• 小児脳腫瘍の会/小児脳腫瘍
• 精巣腫瘍患者友の会 / 睾丸のがん
• メラノーマ患者会/悪性黒色腫(メラノーマ)

希少がん 国の検討会で提案された定義
・数が少ないため、診療・受療上、不利な状況
・年間の発症率が10万あたり6人未満
・標準的な診断法や治療法が確立されていない


希少がんホットライン
03-3543-5601  平日午前9時~午後4時  看護師が対応




出典
朝日新聞・朝刊 2015.7.30