「コーヒーに健康効果」の裏側

「コーヒーに健康効果」の裏側 疫学、病気予防に生かす  信頼度は手法ごとに差

国立がん研究センターや東大による研究で、コーヒーを1日にたくさん飲む人は、飲まない人に比べて心臓病や脳卒中などで死亡するリスクが大きく下がることがわかった。
コーヒーの愛飲者にとっては朗報だが、実はこの結果は疫学研究という手法で出てきたもの。
コーヒーは本当に体にいいのか。

とりまとめたのは東大の井上真奈美特任教授らだ。
1990年代から40~69歳の約9万人を対象に追跡調査され、生活習慣のアンケート結果などとともに得られたデータをもとに、今回はコーヒーを飲む量と死因との関係について調べた。
地域社会など特定集団の中で、病気の発生などの頻度や分布を調べ、その要因を明らかにする疫学研究の一種だ。
その結果、コーヒーを1日3~4杯飲む人は、ほとんど飲まない人に比べて心疾患や脳卒中、呼吸器の病気による死亡の危険性が4割減った。
心疾患は36%、脳卒中は43%、肺炎などの呼吸器疾患も40%死亡率が低かったという。
私的コメント
5杯以上飲む人の場合は、数が少なく詳細な分析は困難だった。
また砂糖やミルクを入れるかなど飲み方の違いは考慮されていない。

緑茶でもほぼ同じ結果が出た。
私的コメント
1日5杯以上飲む男性は、ほとんど飲まない男性に比べて脳血管病で死ぬ確率が24%減、呼吸器病で45%減。
女性は心臓病で死ぬ危険性が37%減。
どんな薬より効果がありそうな結果です。
薬とコーヒーろ緑茶の組み合わせは「鬼に金棒」です。

少なくとも、コーヒーや緑茶が健康を害するということはなさそうだ。
今回の結果では、コーヒーでは(血糖値や血圧を調整する)クロロゲン酸、緑茶では(血管の健康を保つ)カテキンといった含有成分が有効に働いたのではとも推察できるが、含有成分が効いたかどうか、その点は分からないと研究者は言う。
疫学研究では、何がどのように結果に結びついたか詳細なメカニズムなどまでつかみ取ることができないからだ。
 
例えば野菜を摂取する人の方が、がんになりにくいという疫学研究の結果がある。
ここからニンジンなどに含まれるベータカロテンだけを抽出して喫煙者に摂取を勧めれば、肺がんになりにくいのではないかと考え実施した海外の研究グループがある。
しかし、結果はむしろ肺がんになる確率が上がってしまったという。
一般の人が疫学研究の結果を自己流に解釈して特定の成分だけをサプリメントなどで摂取するのは危険と専門家は指摘する。

「○○が△△の予防に効く」とする結果を導き出す疫学だが、手法によって結果の信頼度が違うという点にも注意が必要になる。

  ◇  ◇

結果の信頼度が最も高いのは、ある仮説を検証するために治療法や予防法を実際に試す介入研究だ。
新薬の開発で薬の有効性を調べるのに実施する臨床試験などが代表例。
新薬候補の物質を服用するグループと偽薬(プラセボ)を服用するグループに分けて、効果に差が出るか調べる。
参加した本人や効果を判定する医師にも、どちらのグループに所属しているのかわからないようにするなど厳密なルールのもとで実施する。
 
この手法は、調べたいものの有効性についてはっきりと出やすい。
しかし、参加者にとって明らかに有害になりそうなたばこの影響などを調べることは難しい。
そこで将来にわたって観察を続ける前向きコホート研究という手法が使われることがある。
 
健康な大勢の集団を10年以上追跡して、各種がんなどの病気の発症を見る。
アンケート結果から得た生活習慣別に比べて、その集団の中での発症の割合などを調べるわけだ。
数千~10万人規模で見るため、信頼度は比較的高いとされるが、対象集団の中の傾向をみているにすぎない。
コーヒーと心疾患などの関係を調べた今回の研究もこの手法。
研究者の結論は「飲みたい人は辞める必要はないし、飲めない人が無理に飲む必要もない」。
 
国立がん研究センターなどは、日本人の死因トップのがんの発症についても、たばこや食事内容などとの関係を調べるためにこの手法で研究を実施し、結果を公表している。
ただ、前向きコホート研究は、結果が出るまでに長い年月がかかり、費用も必要だ。
 
がんになった人に集まってもらい、自身の生活習慣を振り返ってもらい、予防法を見つけるという手法もある。
症例対照研究というタイプだ。
一見すると合理的だが、過去の経験の思い出し方には個人差があり、バイアスがかかってしまう。
信頼性はコホート研究より低く見るのが一般的だ。

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疫学研究の結果を利用する際、どういったデータからどういった結論を導き出しているかという点に注目する必要がある。
例えば多くの新薬では、死亡率が減っているかが重要になる。

血圧や血糖値を下げる薬が血圧や血糖値を正常値にしたとしても、長期間の服用による副作用で寿命が短くなったら意味がない。
血圧も下げた上で、寿命が延びるのかどうかを調べるには、現在のところ疫学研究をするしか方法がない。
 
疫学は、自身の生活習慣の見直しの参考になるだけではなく、次世代に残す共有財産にもなる。
多くの一般の人の協力があって初めて成り立つ研究という側面も理解しておきたい。
   
   ◇  ◇

■日本の研究体制は脆弱 統計学の専門知識持つ人が不足
疫学の始まりは19世紀に英国で実施されたコレラ研究といわれている。
コレラは当時、空気感染するとされていた。
だが英国人研究者は、同じ井戸の水を飲む人にコレラを発症する割合が高いことを突き止めて井戸の使用を禁止、コレラの予防に成功した。
日本では同じ頃、当時の軍人に多かった脚気(かっけ)予防に麦飯が有効であることを示したのが始まりとされる。
 
コレラ脚気も原因菌や物質が突き止められたのは疫学研究よりも後になる。
原因は分からないものの予防法を見いだすというのは疫学の強みともいえそうだ。
 
ただ、日本の疫学研究の体制は欧米に比べると脆弱であると専門家は指摘する。
予算の規模も小さいほか、医師以外にも統計学などの専門知識を持った人が必要だが不足している。
20~30年も追跡調査をして初めて結果が出てくるものも多いため、5年程度で結果を求められる現状の日本の研究支援の枠組みにそぐわず、研究者が育ちにくいという指摘もある。
 
民族の違いなども考えると日本で一定規模の疫学研究を維持していくことは不可欠だ。

出典
日経新聞・朝刊 2015.6.28(一部改変)

<私的コメント>
新聞に掲載された記事とも思えないぐらいアカデミックな内容でびっくりしました。
「多くの新薬では、死亡率が減っているかが重要になる。血圧や血糖値を下げる薬が血圧や血糖値を正常値にしたとしても、長期間の服用による副作用で寿命が短くなったら意味がない」という部分は、私自身が普段から思っていることで大いに共感しました。


<関連サイト>
コーヒー1日3~4杯、心臓病死の危険4割減 東大や国立がんセンター
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG07H17_X00C15A5000000/


動能力アップ・認知症予防も、カフェインの効能
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO78354410U4A011C1000000/

糖尿病、発症しにくく コーヒー「1日3~4杯まで」が目安
http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy/42201880.html

コーヒーや緑茶 長寿のカギ
http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy/42150233.html

朝一番のコーヒーはNG
http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy/39258982.html

コーヒー、紅茶・緑茶に「脳卒中の予防効果」
http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy/37324553.html