遺伝子検査

= 遺伝子検査、ばらつく結果  
なりやすい病気を予測 精度に課題、うのみ危険 =
遺伝子を調べて、将来どんな病気になりやすいかを教えてくれる時代になった。
病院へ行かなくても、インターネットを通じて申し込め、手軽さがうけている。
ただ、科学的な根拠に乏しく、精度があやしい検査もある。
遺伝子はどこまで私たちの未来を語っているのだろうか。

遺伝子とDNA、ゲノムの関係
人間の体は約60兆個の細胞からできている。
細胞一個一個に同じDNAが存在する。アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)の4種類の化学物質(塩基)からなるDNAは、長いひものような形で、細胞の核の中に折り畳んでしまわれている。
 
遺伝子はこのDNAのところどころに点在し、生命活動にとって大切な約10万種類のたんぱく質を作り出す。
人間だとDNAの約2%が遺伝子にあたる。
約30億の塩基のペアからなるDNA全体が「生命の設計図」でゲノム(全遺伝情報)と呼ぶ。

型の違いを分析
塩基の種類で光る色が違うようになっており、その人の遺伝子の型(タイプ)がわかる。
 
この遺伝子の型がミソだ。
人種や性別、年齢に関係なく、人間は約2万個の遺伝子を持つ。
でも、地球で暮らす約70億人のだれひとりとしてまったく同じ遺伝子の人はいない。
塩基の並びが微妙に違うからだ。
その違いは全体の約0.1%しかないが、
さらにこの一部が病気のなりやすさを左右する。
 
例えば、肥満に関連する遺伝子としてよく知られている遺伝子が3つある。
各遺伝子には塩基が1個だけ違う2つのタイプがあり、この差異によってエネルギーの消費量が変わってくる。
「倹約型」を持つ人は「消費型」を持つ人に比べて少しのエネルギーで体を保つことができ、高カロリー食のあふれた現代社会では太りやすくなる。
 
こうした遺伝子の微妙な違いから「○○病になる危険性が3倍」という結果になったとしても、その数字のとらえ方で注意がいる。
このリスクは同じ遺伝子の型を持った集団の傾向を統計学を利用してはじき出したにすぎず、個人にあてはまるかどうかは別の問題。
あるテストでA組のクラスの平均点が80点、B組が50点だったとしても、A組の生徒のなかに40点の人がいるのと理屈は同じだ。

発病の仕組み複雑
また、生活習慣病の代表である糖尿病の場合、関連遺伝子は少なくとも60個ある。
喫煙の有無や毎日の食事の内容、ストレスの度合い、普段から運動をしているかどうかなどが複雑にからみあって発病する。
その仕組みも詳しくはわかっていない。
リスクとして示される数字は、現時点の研究からわかるおおざっぱな傾向ぐらいに思ったほうがいい。
 
C社の検査で「認知症の発症リスクが4倍」という人が、D社の検査では「変わらず」という結果になることもある。
同じ病気でも調べる遺伝子の数や種類が検査会社によってまちまちだからだ。
 
一部のがんなどを対象に病院が実施する遺伝子検査と異なり、質や情報提供の仕方もばらばら。
上手に利用すれば病気を予防する動機づけになるが、理解せずに受けると戸惑うことにもなる。
 
遺伝子検査ビジネスで先をいく米国では2013年11月、米食品医薬品局(FDA)が、ある検査会社に検査キットの販売中止を命じた。
検査の質や情報提供に問題があると判断したからだ。
日本でも経済産業省が専門家らを交え、トラブルが起きないためのルール作りに動き出した。
 
人のすべてのゲノムを解読し終えてから10年あまりがたった。
遺伝子が病気を引き起こす重要なカギを握ることが判明した。
一方で遺伝子だけですべてが決まると考えるのは、大きな誤解であることもわかってきた。

病院の遺伝子検査
ある遺伝子の変化が特定の病気の原因となることが科学的にはっきりしている場合にのみ実施する。
代表例は神経難病や遺伝性の乳がん、家族性アルツハイマー病など。
最近、ハリウッド女優が遺伝子検査を受けた結果、がんを予防するため乳房を切り取り、大きな話題になった。  
 
現在は効果的ながんの治療薬を選ぶために遺伝子検査をすることもある。
健康保険が適用されるケースが多い。

遺伝子検査を病院で実施するには、原因と結果の因果関係をはっきりさせ、検査方法も確立し、効果的な治療法があるといったいくつものハードルを越えなくてはならない。

出典
日経新聞・朝刊 2014.4.11(一部改変)