肥満症の手術

肥満症、増える手術 胃切除に保険適用、後遺症の心配も

肥満が原因の病気を抱える患者は、服薬や食事、運動療法などで減量を行う。
そうした治療で改善しないときに、腹腔鏡を使って胃を小さくする外科手術がある。
昨年4月から、手術法の一つに公的医療保険が適用され、件数も年々増加している。
ただ、後遺症が出ることもあり、慎重な判断が必要となる。

腹腔鏡手術は自費診療で約200万円。
だが、手術法の一つ「スリーブ状胃切除術」が昨年(2014年)4月から保険適用となり費用が25万円以下になった。

「あくまでも最終手段」
日本肥満学会の指針では、BMIが25以上で、糖尿病や脂質異常症など11の病気のいずれか、または内臓脂肪の面積が100平方センチ以上あると「肥満症」で治療必要とされる。
薬や食事・運動指導が基本だ。
 
しかし、これらの治療で十分な効果が得られず、一定の条件を満たせば、健康保険で外科手術を受けることができる。
 
国内では、主に二つの手術がある。
一つは保険適用のスリーブ(袖)状胃切除術で、主流となりつつある。
胃の大半を切除し、残ったバナナ状の胃の容量は100ccほどになる。
 
次いで多いのが「胃バイパス手術」だ。
切り取った小さな胃と、小腸を伸ばしてつなげるが、食事制限に加え、消化吸収する腸管の距離が短くなることで、栄養の吸収が抑制される。
 
ただ肥満症の外科手術はあくまでも最終手段。
 
手術をしても標準体重に戻るわけではなく、栄養素の欠乏で、貧血や爪が割れやすくなったり、髪の毛が薄くなったりする後遺症もある。
生活の活動範囲は広がるが、不自由も出てくる。
決してバラ色ではない。

保険適用は15施設
日本肥満症治療学会によると、肥満症の外科治療を行っている国内22施設のうち15施設で保険を適用している。
海外では2000年代から開腹手術に代わり、安全性が確立した腹腔鏡手術が増え始めた。国内では82年~07年は計186件だったが、昨年は年間200件を超えた。
昨年までの合計は1043件にのぼる。
 
保険適用の手術は今年6月までに計167件で、九州大が35件と最も多く、大分大25件、岩手医科大21件、大阪大15件(いずれも付属病院)など。
学会によると、08年以降の集計(857件)で、手術後に合併症が起きる発症率は9・8%。出血が25件と最も多く、食事が通る部分の狭窄(きょうさく)や縫合不全など計84件が報告されている。
患者平均のBMIは42・1、体重減少は28・5キロ。
糖尿病は95%が改善し、高血圧は59%、高脂血症は61%が改善しているという。
糖尿病の改善率はバイパス手術が96・2%と他の手術より高いという。
ただ、同手術は現在、保険が適用されていない。

参考
スリーブ状胃切除術
長所
・保険が適用されるので安くできる
・シンプルな手術で、トラブルも少ない
短所
・胃を切除するため元に戻せない
・バイパスに比べリバウンドの可能性が高い

バイパス手術
長所
・栄養の吸収抑制が期待できるため糖尿病の改善率が高い
・海外の実績も高く、長期成績もある
短所
・保険が適用されないため高価
・残した胃の検査がしづらい


出典
朝日新聞・朝刊 2015.9.8