高齢者の低栄養

高齢者の低栄養 たんぱく質不足、病気・けが招く

年をとると食事の量を減らし、肉類を控える人がいる。
そんな食生活を続けていると、「低栄養」になって免疫力や筋力が落ち、健康状態が悪くなりかねない。
 
自宅で自立した生活を送っている高齢者の中にも、低栄養の人は1割程度いる、といわれている。
 
低栄養とは必要なカロリーや栄養素が不足し、病気やけがを起こしやすくなった状態のこと。
例えば、免疫力が低下して肺炎などの感染症にかかりやすくなったり、たんぱく質の不足で筋肉量が減って転倒や骨折をしやすくなったりする。
カルシウム不足は骨粗鬆症のリスクを高め、皮下脂肪の減少が床ずれの原因になる。
身の回りのことを自分でできていた高齢者が、介護されるようになることもある。
    
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食べ物が十分にある日本で高齢者の栄養状態が悪くなるのは、食と健康に関する誤解や社会的な要因が影響しているようだ。
 
年をとったら粗食を心がけ、肉を減らした方がいいと思い込んでいる人が多い。
筋肉や臓器など、体のもとになるたんぱく質は年をとっても必要な量は若い頃とほとんど変わらない、という。
一方、加齢とともにたんぱく質を合成する能力が落ちるため、若い頃よりもたんぱく質の摂取量を減らすべきではない。
 
たんぱく質は20種類のアミノ酸の組み合わせでできている。
体内で合成できない必須アミノ酸のバランスがよいのは、動物性たんぱく質。肉類や魚介類、卵、乳製品に含まれる。
 
高齢者が低栄養に陥る原因は、ほかにもある。
食事の準備が面倒で、回数や品数が減ってしまう場合だ。
また、いつも一人で食事をしていると食欲が落ちやすい。
ひとり暮らしの人は、友人らと食事する機会を積極的につくった方がいい。
持病などの薬の影響や、食べ物をかんだり飲み込んだりする機能の低下によって食欲が落ちたら、かかりつけ医や歯科医を受診する必要がある。

低栄養になる前から栄養状態を高めることが、病気や介護の原因となる老化を遅らせることにつながる。
男性は60歳ごろから、女性は閉経後からを目安にするとよい。
食品のとり方も重要で、たんぱく質は1日1回にまとめてとるよりも、3回に分けた方が効率よく筋肉などがつくられるという。
 
食べる品数の多さも大切だ。
肉類、卵、牛乳、油脂類、魚介類、大豆・大豆製品、緑黄色野菜、芋類、果物、海藻類の10食品群について少量でも気にせず、1日1回摂取すれば栄養状態を高められる。


低栄養に注意しよう
① ⬜︎ 最近、食欲が落ちた
② ⬜︎ 体重が自然に半年で3キロ以上減った
③ ⬜︎ 自主的に食事制限をしている
④ ⬜︎ 持病などあり、常に薬を飲んでいる
⑤ ⬜︎ かむカが落ち、飲み込むときによくむせる
⑥ ⬜︎ 1日2食以下のことがある
⑦ ⬜︎ いつも1人で食事する
⑧ ⬜︎ 肉や魚、卵を食べる量が減った

①② 低栄養だけでなく、何か病気が隠れている可能性があります。
③ 高齢者のダイエットは、体に悪影響が出かねません。
④ 薬の増量や種類の変更後、体重が減ったら医師に相談を。
⑤ 歯や入れ歯に問題があれば治療が必要です。飲み込む機能を医療機関でチェックしてもらいましょう。
⑥ 1日3食を心がけましょう。
⑦ 1人での食事は食欲の低下や栄養の偏りにつながります。家族や友人らと食べる機会を少しでもつくりましょう。
⑧ 高齢者はたんぱく質の摂取が不足しがち。しっかり食べましょう。
          
出典
朝日新聞・夕刊 2015.8.31