がんの遺伝子解析

がんの個性、調べて治療 遺伝子解析、薬選びの参考に

がんは遺伝子の異常な働きが原因で起きる遺伝子異常のタイプは薬の効き目にも大きく影響する。
がん組織を調べると、たくさんの遺伝子で異常が起きていることもわかってきた。
あらかじめ遺伝情報を調べて薬の選択に役立てようとする試みも始まっている。

同じがんでも効き目に差
国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)では今年から、BRAF遺伝子に変異のある患者に対し、新しい分子標的薬の安全性を確かめる臨床試験(治験)が始まった。
 
従来の抗がん剤が、がん細胞だけでなく正常な細胞も攻撃するのに対し、分子標的薬は、特定のたんぱく質や遺伝子の異常な働きを阻害するように設計されている。
 
同じ大腸がんでも、どの遺伝子に変異があるかによって、薬の効き目に大きな違いがある。患者ごとにがんの個性を調べて、その人に適した治療ができれば、より高い効果が得られるようになると考えられる。

原因遺伝子100種類超
細胞増殖にかかわる遺伝子の働きが異常になり、細胞が制限なく増えてしまうのががんだ。異常が起きる原因にはたばこに含まれる発がん物質や放射線など様々あるが、大部分は次世代に遺伝しない。
生まれつきの遺伝子異常で、高い確率でがんになる「遺伝性のがん」は、全体の5%程度とされる。
 
がん化にかかわる遺伝子は、大きく分けて2タイプある。
ひとつは車のアクセル役に当たる「がん遺伝子」で、働きが過剰になるとがん化につながる。突然変異のほか遺伝子の数が増える「増幅」などがある。
RAF遺伝子もがん遺伝子のひとつだ。
 
もう一つは、遺伝子の傷の修復や、細胞を死に導いて異常な増殖を抑える「がん抑制遺伝子」で、ブレーキ役に相当する。
こうしたがんの原因となる遺伝子は100種以上ある。

がんは通常、複数の遺伝子異常が蓄積して起きることもわかってきた。
1人の患者のがん組織の中でも、細胞によって遺伝子異常は不均一だ。
 
分子標的薬は使っているうちに効き目がなくなる「耐性」が起きることが知られている。薬の効き目を逃れるような別の変異や異常をもつ細胞が増えるのが一因と考えられている。
あらかじめ遺伝子異常を網羅的に調べ、患者一人ひとりに合わせた薬の選択につなげようとする試みも始まっている。
 
静岡県立静岡がんセンターは昨年、人の全遺伝子約2万個を調べる研究「プロジェクトHOPE」を始めた。
がん手術を受ける患者に協力してもらい、正常な組織とがん組織をそれぞれ解析、がんの原因となった遺伝子異常を推定する。
3千人の解析が目標ですでに千人以上解析した。
将来、再発した場合は、すでに遺伝子を調べてあるので、適した治療法の選択に役立つ。遺伝子異常に関する情報は、効果が見込めない治療や副作用を避けるのにも役立つ。
 
肺がんや乳がんなど臓器ごとに開発された薬を、将来はがんの原因となる遺伝子異常の組み合わせに応じて処方できるようになるかもしれない。


   
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出典
朝日新聞・朝刊 2015.9.22