大動脈瘤、潜むリスク

自覚症状なく破裂・解離 画像検査で発見も/血管内治療が普及

心臓から全身に血液を送る役割を担う大動脈は、全身の血管の中で最も太い。
この血管に気付かない間にできた瘤(こぶ)が破裂したり、血管が裂けたりすると、高い確率で死に至る。
自覚症状がほとんどなく進行する病気なので、健康診断などで瘤を見つけるなどして、予防を目指したい。

大動脈は胸部で直径が3~3.5センチメートル、腹部で2~2.5センチある。
血管は内側から内膜、中膜、外膜の3層構造になっており、高い圧力がかかっても簡単に破れないようにできている。
 
しかし、動脈硬化などが原因となって大動脈の一部が瘤状にふくらんでしまうことがある。
これが大動脈瘤だ。
また、血管を構成する内膜が穴が開き、そこに血液が流れ込んで中膜がはがれてしまうのが大動脈解離だ。
解離性大動脈瘤と呼ぶこともある。

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こうした現象はいずれも目立った自覚症状がなく進む。
このため「サイレントキラー」と呼ばれる。
動脈瘤の主な原因は高血圧と動脈硬化だ。
血管壁がもろくなるなどした結果、血液の流れによる圧力の影響で膜に傷がつき、瘤になると考えられている。
動脈硬化は年齢とともに進むため高齢男性などで発症しやすい。
 
ただ誰でも起こる可能性がある。
動脈硬化が進んだ高齢者より血管が硬くなっていない若年層の方が解離が発症すると重症になることが多い。
 
大動脈解離と関係が深い病気もある。
その一つが身長が高く、手足が長いマルファン症候群。
約5000人に1人の割合でいるとされる同症候群は4分の3が遺伝が関係する家族性で、残りが突然変異によるものだ。
同症候群の人でせきが止まらないというのでコンピューター断層撮影装置(CT)を使って調べたところ、大動脈解離が見つかった例もあるという。
動脈瘤もできやすい。
 
大動脈の病気は運動中に起こりやすい。
運動時は血圧の変動が平常時よりも大きくなる。
こうした点が引き金となっているとみられる。
 
中高年が親しむスポーツの代表例であるゴルフのプレー中に起きるケースなどが目立つという。
明確な根拠はないが、クラブを振るときの体をひねる動きによって血圧が上がるためではないか、と推測されている。

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治療しないと命に直結する病気にどう対処すればよいのか。
瘤が破裂した後の緊急手術による救命率は10~20%とされるが、実際は手術に至る前に死亡している人もいるとみられる。
 
毎年の健康診断や人間ドックなどの画像検査で瘤が見つかれば、手術を実施して破裂という最悪の事態を避けることも可能だ。
他の病気の検査などで偶然見つかる例も多い。
高血圧や動脈硬化を指摘されている人は健診などをきちんと受けることが大切だ。
ただ、解離の発症予測は難しいケースが多いという。
 
瘤が見つかった場合でも、瘤ができる箇所や形状、大きさによって手術に踏み切るかどうか対処は異なるため、専門医に相談することが重要だ。
 
手術は瘤や解離した部分を、人工血管で置き換える手法が一般的。
開胸や開腹による手術、「ステントグラフト」という器具を入れる血管内治療などがある。
 
胸や腹を開く手術は患者の負担も大きいが、実績も多い。
一方、ステントグラフトは足の付け根の動脈からカテーテル(細い管)を使って瘤のある場所に送り込む。
そこで器具が広がって大動脈の壁に張り付くように固定される仕組みだ。
患者の負担は小さいものの、比較的新しい手法のため、長期で見た効果の検証などが求められるという。
 
大動脈の病気は確実に予防できるわけではないが、生活習慣にも気を配り、リスクをできるだけ減らすようにしたい。
バランスのよい食事や適度の運動を励行すれば、動脈硬化の進行を遅らせることができる。
リスクを上げる高血圧や脂質異常症、糖尿病などに気を付けるとともに、飲み過ぎを避けてたばこも吸わないことが重要だ。

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出典
日経新聞・朝刊 2015.12.20


<私的コメント>
動脈瘤と大動脈解離のどちらも動脈硬化を原因とすることが多く、その危険因子である高血圧、高脂血症、喫煙、糖尿病、多量飲酒などに目を向ける必要があります。
循環器病に共通する、こうした危険因子の予防と適切な治療、禁煙、節酒が、ひいては大動脈瘤や大動脈解離の予防に極めて大切です。

予防の心得
①降圧剤の服用
②塩分の少ない食事
③運動
④禁煙
⑤節酒
⑥ストレス解消
⑦快便
(これらは多くの循環器の病気に共通する心得でもあります)


<関連サイト>
解離性大動脈瘤(大動脈解離)って?
http://www.jsvs.org/common/kairi/index.html
・大動脈解離; なんらかの原因で内側にある内膜に裂け目ができ、その外側の中膜の中に血液が入り込んで長軸方向に大動脈が裂けること。
・解離性大動脈瘤; 中膜に流れ込んだ血液は、新たな血液の流れ道(解離腔または偽腔)をつくり、それによって血管が膨らんだ状態。外側には外膜一枚しかないため、破裂の危険性を伴う。

大動脈に”こぶ”ができたら
http://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/blood/pamph57.html



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     2015.12.14 撮影