「緩和照射」

症状和らげる放射線の「緩和照射」 生活の質改善に期待

手術、薬と並ぶがん治療の三つの柱に位置づけられる放射線治療
実は痛みや呼吸困難などの症状を和らげるために使われることもある。
「緩和照射」と呼ばれ、生活の質の改善が期待できる。
全身状態が良くなれば、その後に積極的な治療が受けられるようになる人もいる。

低い線量、少ない体の負担
現在、抗がん剤を服用しながら通院を続けるが、筋肉をつけるために、近くの山にハイキングにも行く。「おかげさまで、普通の生活をしています」
 
放射線治療には、がんの根治や再発・転移のリスクを下げるために照射する以外に、痛みや神経への圧迫を取り除いて症状を和らげる「緩和照射」がある。
根治はむずかしい進行がんで生活の質を上げるためなどに使われる。
 
根治目的の照射より通常、線量を下げて行われる。
体の負担が少なく、高齢者や体力がない人でも受けられる。
症状をよくするためなので、線量を低くして副作用が出ないようにする。
 
体の外から照射する方法のほか、骨転移が多発している場合は、放射性物質ストロンチウムを注射する方法もある。
がんのまわりは骨代謝が活発になる。ストロンチウムはカルシウムと化学的な性質が似ており、骨代謝が高い場所に集まって放射線を出し、がんを攻撃する。

骨転移の痛み・圧迫など軽減
緩和照射の対象になることが多いのは骨転移だ。
乳がん、肺がんなどさまざまながんで、骨へ転移することがあり、激しい痛みを伴うことが多いためだ。
 
がんが脊髄神経を圧迫している場合は急を要することもある。
状況によって骨の一部を切って圧迫を除く手術か、放射線の緊急照射を検討する。
足が動かない、尿意や便意がないといったまひ症状がすでに出ている場合は、早急に対処する必要がある。
 
がんが血管を圧迫したり、圧迫で気道狭窄になったりすると呼吸困難を起こすこともある。
この場合も緩和照射でがんを小さくすれば、圧迫が軽くなり、呼吸困難がよくなることが期待できる。
 
止血のために緩和照射をすることもある。が
んの中の血管は脆弱で、出血すると、薬では止血できないことがある。
貧血を防ぐために出血の原因になっているがんを小さくする。
 
痛みや圧迫を改善することで、全身状態がよくなり、積極的ながん治療ができるようになることもある。

放射線専門医の不足も課題
日本放射線腫瘍学会の推定では、放射線治療を受けた患者は2005年の約20万人から11年は25万人に増えた。
その間、がんと診断された人は年間約67万から85万人に増えており、放射線治療を受ける人の割合は変わっていない。
放射線治療を利用するがん患者の割合は欧米では5~7割だが、日本では3割程度だ。
 
がん患者が増えても緩和照射の利用は増えていない。
同学会が調査で把握した骨転移に対して緩和照射を受けた患者は05年から11年まで毎年3万人弱で横ばいで推移する。

放射線治療を専門としない医師に利点が十分に理解されていない可能性がある。
患者さんのメリットを考えると、放射線治療はもっと有効活用されていい。
 
一方、緩和照射を効果的に行うにはノウハウや経験が必要だが、放射線治療の専門医そのものも不足しているという。
同学会と日本医学放射線学会が共同認定する放射線治療専門医は全国で約1千人。
毎年50人ずつ増えているが、がん患者の増加に追いついていない。
厚生労働省の報告書では、20年には1700人以上が必要とされ、人材育成が課題になっている。


在宅ホスピスケア 
治療法がなくなったとき、患者や家族は残された時間をどこでどう過ごすかで悩む。
在宅ホスピスケアはその選択肢の一つ。
死を前にして医療が無力になったとき、全人的なアプローチをして苦しみをとるケアが理想となる。
それを病院のホスピス病棟ではなく、住み慣れた自宅で提供されることを「在宅ホスピスケア」は意味する。
 
ただ、在宅医なら誰でもホスピスケアが出来るわけではない。
医療用麻薬を使った痛みのコントロールや、急な病状の変化に対応できる態勢が必要だ。

信頼できる医療機関を探す方法として、日本在宅ホスピス協会が運営するサイトもある。
提供されるケアの質を知る一つの目安として、在宅末期がん患者数と在宅看(み)取り数がある。
何人の患者にかかわり、うち何人を最期まで診ているかが大事だ。
9割以上を看取っていれば、質の高い在宅ホスピスケアを提供しているとみてよい。

<関連サイト>
「末期がんの方の在宅ケアデータベース」
http://www.homehospice.jp/
(日本在宅ホスピス協会が運営)

日本在宅ホスピス協会が運営する「末期がんの方の在宅ケアデータベース」
http://www.homehospice.jp/


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出典
朝日新聞・朝刊 2016.1.23(一部改変)


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                       2016.2.9