歩いて病気予防

歩いて病気予防、目安は?  やりすぎると免疫力低下

糖尿病なら1日8000歩、早歩きで負荷プラス
運動不足が健康に良くないのは当たり前。
でも医師から「適度に運動しましょう」と言われ、ふと考え込んでしまうことはないだろうか。
「どんな運動を、どれだけすれば?」。
特に若い頃に比べて思い通りに体が動きづらい高齢者にとっては悩ましい。
実は専門家にとっても関心事で、様々な研究をしている。
新しい成果を知り、日々の健康づくりに役立てたい。

中強度の運動は高齢者の場合、何とか会話できる程度の早歩きや草むしり、自転車こぎなどが該当する。

奈良県では2014年から「おでかけ健康法」の普及に取り組んでいる。
 
この健康法では1日8千歩、うち中強度の運動を20分含むことを目標に、日々の活動量を増やしていく。
提唱した東京都健康長寿医療センター研究所(東京・板橋)の青柳幸利運動科学研究室長は2000年から群馬県中之条町の高齢者約5千人を追跡調査し、運動量と様々な病気の発症率の関係を調査した。

例えば1日4千歩、うち中強度の運動を5分以上していたグループでは、それより少ないグループに比べてうつ病の発症率は10分の1以下だった。
同様の結果が
認知症脳卒中は5千歩(中強度は7分30秒)
▽一部のがんや骨粗しょう症は7千歩(同15分)
▽糖尿病などは8千歩(同20分)
――と確認されたという。

それぞれの運動量が各疾患の予防につながる目安という。
ただ歩けば歩くほどその効果が高まるかというと、頭打ちがみられた。
青柳室長は「運動のしすぎは疲労がたまったり、足腰への負担が大きくなったりする」と指摘。
頑張りすぎない適度な運動として「1日8千歩、中強度20分」を推奨しているという。
 
厚生労働省が13年にまとめた「健康づくりのための身体活動基準」も参考になる。
国内外の研究成果を基に、65歳以上は「どんな動きでもよいので、身体活動を毎日40分」すべきだとする。
18~64歳なら「歩行または同等以上を毎日60分」とし、これとは別に「息が弾み汗をかく程度の運動を1週間で計60分」するのが望ましいとしている。
 
感染症などから身を守る「免疫」の働きを高めるためにも、適度な運動は重要だ。
運動不足の解消は免疫力を向上させる一方、過度になると逆に低下する。
運動量が非常に多いアスリートが「風邪を引きやすい」とされるのはこのためだ。
 
では免疫力が高くなる運動量はいかほどだろうか。
ある研究グループは、風邪のウイルスが粘膜に侵入するのを防ぐ唾液内の「分泌型免疫グロブリンA」に注目。
平均71歳の284人について、分泌速度を調べた。
 
高齢者の1日の歩数を4分割してみたところ、上から2番目(5968~7673歩)がこの物質を最も速く分泌していた。
人それぞれで一概には言えないが、1日7千歩程度が免疫力を高める運動の目安になりそうだという。
 
この研究者は「高齢者の多くは運動不足で、健康づくりのために活動量を増やしても簡単には過度にならない」と指摘する。

◇     ◇

■若者は短時間でハードに
運動をしたくても仕事が忙しくて時間がない。
こうした20代、30代の若手に別の研究グループが推奨するのは、短時間の高い強度の運動。
高血圧ではないことなどを条件に、1日4分行うだけでも健康維持に有効という。
例えば前かがみになって両手を地面につき、足だけを跳ね上げ、左右に着地する運動だ。
こうした高強度の運動を20秒間と10秒間の休憩を1セットとし、これを8回繰り返す。
有酸素運動無酸素運動の両方の効果が得られる。

この研究では、持久力が高まるだけでなく、糖尿病の予防効果があるたんぱく質が増えることも明らかになった。
いきなり8セットではなく、3セットでも効果はあるので少しずつでも始めたい。
こうした運動をするときは、けが防止のため事前のストレッチを怠らないようにしよう。

 
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出典
日経新聞・夕刊 2016.2.26(一部改変)