「いつもの薬がほしいだけ」

「いつもの薬がほしいだけ」は意外に怖い

特に相談したいことがなければ、「いつもの薬がほしいだけなのに、なんでわざわざ診察室に入らないといけないのか」と、面倒くさく感じることがあると思う。
時間がもったいないので、薬だけもらってさっさと帰りたいという気持ちは、よく分かる。
 
しかし、これはダメ!
 
「無診察処方」といって、医師法違反になってしまう。
 
なぜ毎回診察してもらわなければいけないのか?
 
「しかし、毎回同じような診察で、いつもの薬をもらうだけなのに、なぜ診てもらう必要があるのか?」
 
そんな疑問が湧く。
 
「何も変わっていないのに、何か処方が変わるわけ?」という理屈。
特に、自覚症状の出にくい病気(たとえば高血圧や安定した糖尿病)や、薬でよく症状が抑えられている患者さんの場合、そう考えてしまうのもごもっともだ。

<私的コメント>
診察する側も「毎回同じような診察」であってはなりません。
医師法違反になるから診察を受けるように」ではなく、「毎回、病気や薬の説明をしますから」という気持ちを持たないと「よい診療」にはなりません。
 
時にはとても危ないことになる。
「危ないこと」というのは、大きく分けて2つある。

危険【1】え、この症状、薬の副作用だったの?
まず、飲んでいる薬の副作用が出ているのに、気づかずに見過ごしてしまう危険性だ。
薬の副作用がすでに出ているにもかかわらず、それに気付かずに、その薬をまた1~2カ月分出してもらったら……。
これは結構怖い。

気付いた時にはひどいことになって、取り返しのつかないことに・・・。
これは大変です。
「そんなことくらい普通自分で気付く」と内心思うかもしれない。
しかし、実際は結構気付かないものなのだ。
 
たとえば、「なんだか最近だるいな~」と思いつつ、「年のせいかな」で片づけてしまっていたところ、実はいつも飲んでいる薬の副作用だった、なんてこともあり得る。

<私的コメント>
ふと思ったことがあります。
それは医師による「お薬」の説明のことです。
ご存知のように、最近は院外処方が増えて医薬分業が広がって来ています。
まるで「お薬のことは調剤薬局で訊いてちょうだい」という風潮です。
処方する医師の中にも、こんな気持ちが芽生えているはずです。
私は、患者さんの状態を十分に把握しない薬剤師が調剤の受付で「お薬」の説明をすること自体がなんだか変だ、という違和感をシステムが導入されて以来ずっと抱き続けています。
処方した医師の思惑とは違った説明を調剤薬局のカウンターで説明されたり、副作用を並べたてられて不安を持つ場合もあるでしょう。
院外処方の制度は、医師が薬について調剤薬局に「丸投げ」してしまう危険を大いに含んでいます。
院内処方が罪悪のような風潮になっていますが、患者さんに不便さと経済的負担をかけるこの制度になじめず、当院ではずっと院内処方を続けています。

まさか薬のせいで! 男性なのに乳房が女性化
「お乳が張って痛い」という場合に精神科のお薬が原因の場合がある。
女性化乳房」という副作用だ。

まさか薬のせいで! 頭痛の薬で頭痛が悪化
慢性頭痛に痛み止め(消炎鎮痛剤)を毎日内服していても頭痛がちっともよくならないと思っていたら、実は「薬物乱用頭痛」だった、ということもある。
 
薬物乱用頭痛は、鎮痛剤の使い過ぎによって起こる頭痛だ。
 
頭痛が起きるたびにロキソプロフェンなどの鎮痛剤を頻回に内服することで、さらなる頭痛を誘発していたわけだ。

危険【2】薬の量や種類を変えるタイミングを逃してしまう!
「薬だけもらって帰る」が危ない理由の2つ目は、「たとえ自覚症状がなくても、薬の種類や分量を変更する必要が生じている可能性がある」ということだ。
 
薬の中には、血中濃度が一定の範囲を超えると重い副作用が出てしまうため、毎回採血して血中濃度をチェックし、用量を調節しなければならないものもある。
 
一方、症状がなくなってくれば、薬の量を減らしたり、もっと効き目がマイルドな薬に変更する必要もある。
それは患者さんにとってもうれしいことだ。
 
無症状=診てもらわなくても大丈夫、というわけではないのだ。
 
いつもの薬がなくなったら、面倒でも医師の診察を受けて欲しい。
そして、このまま今のお薬を飲んでいればいいのか、きっちり確認しよう。

<私的コメント>
診療は医師と患者さんの対話から始まります。
医療機関は薬局とは違うのです。


 
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            2016.3.30撮影