エコノミークラス症候群

エコノミークラス症候群 同じ姿勢・水分不足で血栓

地震などの災害による避難生活で気をつけなければならないのが、いわゆる「エコノミークラス症候群」です。
これは足に血の塊(血栓)ができたり、血栓が肺の血管に詰まったりする病気。
4月の熊本地震でも、車中泊をしていた男性が肺梗塞で亡くなるといった「関連死」の中にも、同症候群の可能性が指摘されている人がいます。

主な症状は、ふくらはぎなど主に足の静脈に血栓ができる「深部静脈血栓症」と、この血栓がはがれ、血流に運ばれて肺の血管を塞ぐ「肺塞栓症」。
血栓が肺の血管につまると、体内に酸素を取り込めなくなり、呼吸困難などで死亡することがあります。

      □   □

深部静脈血栓症肺塞栓症は1940年、第二次世界大戦中のロンドン大空襲で防空壕に避難していた住民や、40~50年代には航空機の乗客の間で見つかっていました。
77年にはエコノミークラス症候群という言葉が医学雑誌で初めて使われたと言われています。
  
症状が一般の人に広く知られるようになったのは、2000年のシドニー五輪がきっかけです。
シドニー五輪を観戦した後、英国まで航空機を利用した20代女性がヒースロー空港に降り立った直後に倒れて亡くなったことが世界的に報道されました。
エコノミークラス症候群」が最初に載ったのは99年6月の記事。
98年、欧州旅行を終えた70代女性が関西空港で飛行機から降りた直後に失神し、病院で肺塞栓症と診断されたことを報じています。
 
エコノミークラス症候群という呼び名が定着していますが、「エコノミークラスの乗客にのみ起きる病気」との誤解を与える恐れがあるとして、旅行者に注意を呼びかける際には「旅行者血栓症」という言葉が使われることもあります。
 
航空機のエコノミークラス以外の座席はもちろん、長距離の列車やバスでも同じ姿勢でいると血栓ができやすくなります。
ニクソン米大統領や元サッカー日本代表高原直泰選手は、エコノミークラス以外で発症した著名人としてよく知られています。

      □   □

血栓ができるのは長時間動かないことで血液の流れが滞ったり、ひざの曲がっている部分の細胞が傷ついたりし、血液が固まりやすくなるためです。
また、狭い乗り物の中にいる時や、災害時にトイレに行く回数を減らそうとして水分を控えれば、血液の粘度が上がり、血栓ができやすくなります。
  
血栓ができると、赤く腫れて痛むのが特徴です。
血栓の予防には足を動かしたりマッサージしたりすることが重要です。
しかし、いったん血栓ができてしまうと、肺の血管に遅ばれないように足を動かさず、薬で血栓をとかすなどの治療を受けます。
 
航空会社では血栓の予防法として、ホームページなどで乗客に足の体操や水分の摂取を紹介しています。
 
機内は乾燥し、思った以上に体から水分が失われているので、こまめに飲み物を飲んで下さい。
ただ、利尿作用のあるアルコールやコーヒー、お茶を飲み過ぎると逆効果になります。
 
大事なことはエコノミーークラスを利用するかどうかではなく、十分な水分をとらずに長時間座っていると血栓ができやすく、持病の有無などによってリスクが高まることを知っておくことです。


エコノミークラス症候群 まとめ
主な症状
・呼吸困難
・胸の痛み
・足の赤い腫れ、むくみ、痛み

特に注意が必要な人
・高齢者
・妊産婦
・肥満の人
・糖尿病、高血圧がある人

予防するには
・長時間同じ姿勢をしない
・時々、深呼吸をする
・適度な水分をとる
・歩いたり、足を動かしたりする

足の運動の例
・足を上下につま先立ちする
・つま先を引き上げる
・ふくらはぎを軽く揉む

出典
朝日新聞・2016.6.4



<参考>
快適な空の旅のために インフライト体操
https://www.jal.co.jp/health/flying/ifex.html
(動画)
http://www.jal.co.jp/health/flying/index.html#yobou#link05
(図による解説)


<私的コメント>
エコノミークラス症候群という言葉にはビジネスクラスに対する差別的な言葉の響きがあります。
そのために旅行医学会で「ロングフライト症候群」と正式名が決まりました。
しかし、今回の震災のように「自動車などの狭い空間」が原因の場合には「ロングフライト症候群」はふさわしくありません。
何か、よりよい名称はないものでしょうか。