血糖管理 低すぎも要注意

血糖管理 低すぎも要注意

厚生労働省の調査によると70歳以上の4割が、糖尿病かその予備軍とされる。
糖尿病で血糖が高いと認知症などのリスクが高まる一方、治療で低血糖になっても症状が出にくく、重症になるケースもあることがわかってきた。
関係学会は最近、少し「緩め」の目標値を決めた。
高齢者の特性に応じたケアが大切だ。

症状気づかず重症化
日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会は5月、65歳以上の患者に向けた血糖管理の目標値を発表した。
重症の低血糖を起こすリスクを下げるため、体の状態や年齢に応じて従来の値を少し緩和した。
 
糖尿病患者の血糖は、低めに保つほどいいと考えられてきた。
だが、高齢の患者を対象とした国内の研究で、脳卒中は血糖が高くても低くても起きやすいとの報告が出された。
少なくとも高齢者の患者にとって、血糖は正常な人に近づければいいわけではない。
 
低血糖は、食事や運動の影響で変動する血糖値が70(1デシリットル当たりのミリグラム)より低い場合などに診断される。
薬を飲んだのに食事がとれなかった場合などに起き、冷や汗や動悸といった症状が出る。
インスリンやSU薬、グリニド薬というタイプで起きやすい。
 
昏睡に陥るなど自分では対処できない重症のケースは死亡の危険があるほか、後に脳卒中心筋梗塞認知症を発症しやすくなる。
高齢者は動悸などの典型的な症状が出にくく、気づくのも遅れがち。
「頭がくらくらする」「ぼやけて見える」といった場合、低血糖の恐れがある。
 
身の回りのことが1人でできないなど生活活動度(ADL)の低い人や、認知機能が落ちている人は、重症低血糖のリスクが高い。
こうした人たちの目標値をより高めにしたほか、「これ以上低くならないように」という下限値を設けた。
ただ、めざすべき値は個人の状態によっても違い、目標値に当てはまらない場合もある。

認知障害招く高血糖
低血糖が怖いからといって、高血糖の状態が続けば、やはり脳卒中心筋梗塞認知症のリスクは高まるたとえば、高齢の患者を対象とした国内の研究で、脳卒中の発症率が最も高かったのは、HbA1cが8・8%以上の人たちだった。
 
加えて、高血糖であること自体が、認知機能に問題を起こすことがわかってきた。
糖尿病を治療することで将来の認知症を防げるかはまだはっきりしないが、高血糖が原因の認知機能の低下は、治療によって改善できる可能性がある。
 
糖尿病とともに認知症も発症している人では、決まった時間に薬を飲むなどの対応が自分では難しくなる。糖尿病の薬にはいろいろなタイプがあるので、可能であれば服薬回数を少なくできる組み合わせにして、家族や訪問看護師らに服薬を補助してもらうことなどが考えられる。

運動で筋力維持を
一方、糖尿病の高齢者は、転倒を起こしやすいことがわかってきた。
転倒は骨折などを通して、寝たきりにつながる危険がある。
 
東京都健康長寿医療センターの研究の結果、転倒を起こした糖尿病患者は起こしていない患者と比べ、低血糖になったことのある人が多く、歩く速さなどの「身体能力」が低めの傾向にあることがわかった。
身体能力が落ちると外出するのがおっくうになりがちで、ADLも低下しやすい。

この医療機関では身体能力を保つための「レジスタンス運動」を中心とした運動教室を定期的に開く。
レジスタンス運動は有酸素運動と同様、血糖を改善する効果も期待できる。
 
高齢者は減量にも注意がいる。
食事を減らして体重を落とすと筋肉も減り、身体能力が低下しやすいからだ。
75歳を過ぎたら、むしろ体重はあまり減らさず、筋肉を維持するため、たんぱく質とエネルギーをしっかりとったほうがよい。