遺伝子検査、何がわかる?

遺伝子検査、何がわかる?

唾液などを業者に送るだけで病気のリスクや体質がわかる・・・。
医師や病院を介さない遺伝子検査サービスが広がっている。
ダイレクト・トゥー・コンシューマー(DTC、消費者直接販売型)と呼ばれるそんな検査の正確さや信頼性はどうなのか。
(以下は記者の体験談)

唾液送れば360項目
記者がインターネットで申し込んだのはジェネシスヘルスケア社の「ジーンライフ ジェネシス」。
360項目2万9800円(税別)のところ2万円引きのキャンペーン中だった。
郵便で届いたキットで唾液を採り、同意書と一緒に返送。
1カ月後、検査終了の通知メールが届いた。
閲覧サイトにパスワードを入れると結果が表示された。
 

ドキドキしながら結果を見る。
疾患リスクが、平均と比べ何倍高いか数字で示されていた。
たとえば現在苦しんでいる腰痛は1・61倍。

軟骨形成にかかわるCILPという遺伝子が「腰部椎間板(ついかんばん)症の発症リスクが高い」型という。
項目によっては複数の遺伝子を検査した結果が記載されている。
 
体質はほとんどが3段階で示されている。
「アルコールに強い」は当たっているが、「髪の太さ=やや太い」や「最低血圧=高い」に首をかしげた。
「失敗からの学習能力=高い」には癒やされたが、そこまでわかるのか?

医療と別もの
米国で、3社のDTCを同じ人が受けたら、共通して根拠とした遺伝子はわずか7%だったという調査がある。
米国の後を追う国内のDTCも大差はなく社によるばらつきが大きいと思われる。
 
「生命の設計図」DNAを文章にたとえると、文字にあたる4種類の塩基が約30億字連なる全文が「ゲノム」、うち働きが解明された領域を「遺伝子」と呼ぶ。ゲノムの大半は万人共通だが、ごく一部、人により異なるタイプ(多型)がある。
DTCは遺伝子の多型を調べ、病気や体質との関連を示した論文を根拠にリスクを判定する。
国内のあるDTCは、読み取った約30万個の多型の中から約500個を用いて300項目を判定する。
関連性が科学的に確立していれば、検査会社が根拠とする遺伝子は、かなりの程度共通になるはずだ。
 
ほかにも問題はある。
判定の根拠とされる論文は簡単に言うと、ある病気の患者と一般人の集団の、多型の割合を比べたものだ。
ある多型を持つ人が将来発症するかどうかとは違う。
また、集団どうしの統計的な数字が個人の予測として役立つかも疑問。
 
しかし、遺伝子検査をして乳がんになる前に乳房を切除した米国の女優もいたが、あれは全く別のもの。
遺伝子の中にはただ一つの変異が高確率で病気を起こすものがあり、遺伝性乳がんもその「単一遺伝子疾患」の一つ。
検査は医師の「診断」でのみ行う。
DTCで調べるのは複数の遺伝要因や環境要因が影響する「多因子疾患」で、結果は「リスクや傾向の判定」だ。
 
では、DTCの結果はどう受け止めたらいいのか。
ヤフーのDTC担当者は「リスク数値が高い病気を知り、予防のために生活習慣を変えるきっかけにしてほしい」と話す。
37社が加盟し、自主基準による優良検査の認定を始めた「個人遺伝情報取扱協議会」の理事長も「DTCの目的は病気の診断ではありません」と医療との違いを強調する。

解明これから
多因子疾患のリスクは、ゲノム全体に1200万といわれる多型の影響を総合して初めてわかる。
それに必要な数十万~百万単位の人の全ゲノム解析と追跡調査は緒についたばかりだ。
「医療での遺伝子検査は分析や臨床上の妥当性、有用性、倫理・法・社会的側面などで厳しい制約があり、ビジネスなら別枠というのはおかしい。医療、DTCに関わらず遺伝子検査全体を共通の基準で規制する法整備を急ぐべきだ」と警鐘を鳴らす人もいる。
 
IT大手も参入するDTCには、経産省が産業育成の観点からかかわってきた。
「医療行政の範囲外」と及び腰だった厚労省は昨年、法整備に向けた検討会を立ち上げた。
 
日進月歩のゲノム研究も、未解明の部分は多い。
DTCを受ける時、頭に置いておくべきだろう。

 
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参考
朝日新聞・朝刊 2016.6.25