記憶

脳のいろいろな場所に保管 失う原因もさまざま

記憶力には自信があったのに、人の名前がなかなか出てこずイライラ・・・。
あきらめた頃に突然思い出したので、記憶が消えていたわけではなさそうだ。
長い間乗っていなかった自転車だが試してみたらスイスイ・・・。
記憶にはいろいろな種類がありそうだ。

記憶が脳に蓄えられることはギリシャ時代から知られていたが、記憶の研究が飛躍的に進んだのは、1950年代に米国でてんかんを抑える手術を受けた 患者さんのおかげだという。
脳の側頭葉と呼ばれる領域の内側を切除した後、数分前のことを覚えられなくなったが、子どもの頃のことは覚えていた。
 
このことから、脳の中で新たな記憶を作るために必要な領域と、昔の記憶を蓄えておく場所は別だとわかった。
この患者さんは、引っ越ししたことは覚えていないが、新しい家の間取りを描くことはできるなど、記憶にさまざまな種類があることを示した。
 
記憶にはどのような種類があるのだろうか。
「昨日Aさんと駅で会った」など、個人的な体験やできごとを日記のようにとどめるのがエピソード記憶です。
「レモンは黄色」「熊本は九州にある」など一般的な知識は意味記憶だ。
エピソード記憶意味記憶をあわせて「陳述記憶」と呼ぶ。
言葉で人に伝えることができる記憶だ。
 
言葉で伝えられない記憶は「非陳述記憶」だ。
水泳や自転車は長い間していなくても、体が覚えていて、簡単に忘れない。
こうした記憶が「手続き記憶」
犬にベルの音を聞かせてえさを与えることを繰り返すと、ベルの音だけで唾液が出るようになる。
ベルの音を条件刺激と呼び、条件刺激で意識せずに反応が起こる現象を「条件反射」と呼ぶ。
記憶している時間に注目すると、数分から数十分で消える「短期記憶」と、何日たっても覚えている「長期記憶」に分けられる。
番号を見た直後に、何も見ずに電話をかけることはできても、翌日には番号を忘れることが多い。
電話で話した内容は長く覚えている可能性がある。
 
人の脳は、大脳、小脳、脳幹などからなり、脳幹は生命維持、小脳は運動能力、大脳は思考や言語など脳の高度な働きに関係している。
大脳の側頭葉の内側に海馬などがある。
海馬は記憶づくりの始めにかかわるが、繰り返し覚えたり、思い出したりするうちに、記憶は大脳のいろいろな所に保管されると考えられている。
手続き記憶は小脳や大脳の一部が受け持ちます。
 
認知症は、新しい出来事が記憶できなくなるか、思い出せなくなるかで、エピソード記憶の障害で気づかれることが多い。
 
記憶が障害される病気は他にもいろいろある。
健康な人が突然、記憶できなくなる「一過性全健忘」で、脳の血管障害によると考えられている。
海馬の働きが空回りするような状態で、たいてい1日以内におさまる。
 
何か強烈なショック(心因)などで、それまでの生活をすべて思い出せなくなるのが「全生活史健忘」だ。
ある時点までは覚えているが、その後の出来事は覚えていないなど部分的な場合もある。
自然に思い出していく人もいるが、なかなか思い出せない人もいる。
催眠下、または半催眠下で、質問をすると思い出すこともある。
 
しかし専門家は、「治療方針は慎重に検討しなければならない。強烈な心因があり、無意識に記憶を失って生まれ変わっているような状況の人に、簡単に思い出させてよいのかという問題がある」と話す。
記憶を失い別人として暮らす人もいるそうだ。

 
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参考
朝日新聞・朝刊 2016.5.14