アルツハイマーは脳の糖尿病説

アルツハイマーは脳の糖尿病説

アルツハイマー病患者の脳では、インスリンをつくったり利用したりするしくみが壊れている」

九州大の研究チームは2013年5月、専門誌にそんな報告をした

疫学調査を続けている福岡県久山町で亡くなった住民から脳を提供してもらい、脳で働いているすべての遺伝子とアルツハイマー病との関係を調べた
この病気はアミロイドベータ(Aβ)という異常なたんぱく質の蓄積がもとで起こっているとされている

インスリンは主に膵臓でつくられ、糖を体の細胞に取り込ませるのに働くホルモンだ
最近の研究で、インスリンは脳でも少しつくり出され、神経細胞を守る作用があるとわかってきた
だが患者の脳では、インスリンをつくったり糖を利用したりするのに欠かせない複数の遺伝子の働きが大幅に落ちていた。

糖尿病は大きく、膵臓の異常でインスリンがつくれずに高血糖となる1型と、インスリンはあっても不十分だったり、細胞の側の問題でうまく利用できなかったりする2型に分かれる。
分析した脳には、両方に共通する特徴があった。

インスリンがうまく使えないことがきっかけになって、神経細胞の障害を招き、発症につながっているらしい。
この現象もAβの蓄積がきっかけという。

認知症では、直前にご飯を食べたこと自体を忘れてしまうこともある。
インスリンをつくるのにかかわり、食欲を抑える作用もある遺伝子の働きが落ちているせいではないか、とみられている。

一方、糖尿病がアルツハイマー病を引き起こしやすいこともわかってきた。
別の久山町研究によれば、インスリンがあっても糖をうまく処理できない傾向が強い人ほど、アルツハイマー病を発症しやすかった。
 
大阪大の研究グループは、高血糖が続くと脳にAβがたまりやすくなるほか、タウという別のたんぱく質にも異変が起きて神経細胞が壊れやすくなる、とみる。
 
Aβは一部が全身に回り、インスリンの効き目をさらに落としている可能性もあるという。
糖尿病に招かれたアルツハイマー病が、糖尿病をさらに悪化させるという悪循環だ。


治療法への応用始まる
脳に「糖尿病治療」のようなことをしてアルツハイマー病に対処しようという取り組みも始まっている。
その例のIつが、糖尿病の治療に使われるインスリン薬をアルツハイマー病や軽度認知障害の人たちに試みる臨床研究だ。
 
米国のチームがアルツハイマー病と軽度認知障害の計104人を対象に4ヵ月間実施した。
一般的な注射ではなく鼻からインスリンを注入して、特殊な経路で脳に直接届くようにした。
昨年発表された報告によれば、インスリンを使った人たちで症状の進行が抑えられたという。
 
患者の脳で弱ったインスリンの働きが、注入で補われたとみられる。
ただ、チームは「効果はあったが、度合いは小さい」という。
より長期的な効果などはわかっていない。
 
ほかにも、脳でインスリンが効きにくくなっている状態を改善する薬の開発などが考えられている。
 
アルツハイマー病の治療をめぐっては、Aβをやっつける薬の臨床試験が続いているものの、これといった決め手はまだない。
 
新しい治療を探るうえでも二つの病気の関連の解明は重要だ。
糖尿病への適切な対処がアルツハイマー病にどう影響するかも調べる必要がある。


参考
朝日新聞・朝刊 2013.7.25