日本人に「やせの糖尿病」が多いわけ

なぜ日本人には「やせの糖尿病」が多いのか?

2008年4月に導入された「メタボ健診」では、何とも屈辱的なことに、40~75歳の中高年男女は、有無を言わさず“痛くもない腹”を測られることになりました。
男であれ女であれ、その価値は体重やウエストの大小では決められません。が、「内臓脂肪に生活習慣病が重なると、多くの病気が起こる」というメタボリックシンドロームの本質を捉え、適切な対処をしなくてはなりません。
 
腰痛、花粉症、うつ病認知症、がん・・・近年、日本人の“国民病”と呼ばれる病気が増えたような気がする。
糖尿病も、予備群まで含めれば2050万人、予備軍こそ減少に転じたが、“国民病”の一つで国民医療費39兆2117億円のうち、1兆2088億円が糖尿病に費やされている(2012年度)。
 
生活習慣病のドミノ倒し、内臓脂肪→メタボ→糖尿病というのは、よく知られたメインストリームだが、メタボだけに着目していると、罠にはまる。
実は、日本人の糖尿病は、メタボでない人が約6割を占めている。

日本人の4割が糖尿病になりやすい体質あり
BMI30以上の肥満は、肥満大国アメリカでは3人に1人該当するが、日本はわずか3%。
にもかかわらず、糖尿病の発症頻度は米国と変わらない。
誰もが太った挙げ句に糖尿病を発症するわけではない。
痩せていても油断は禁物。
 
血液中のブドウ糖をエネルギーとして取り込むためには、膵臓の膵島β細胞から分泌されるインスリンが不可欠だ。
インスリンは血中の糖濃度を下げる唯一のホルモンなので、その働きが悪くなると血糖値が上昇する。
それが持続した状態が糖尿病で、インスリンの分泌能力が低下するか、インスリンに対する細胞の感受性が悪化して発症する。

糖尿病の診断基準
1) 高血糖(空腹時血糖126mg/dL以上 または 随時血糖200mg/dL以上 または 75g経口糖負荷試験2時間値〔75gのブドウ糖を飲み2時間後に測定した血糖値〕200mg/dL以上)

2) ヘモグロビンA1cHbA1c)6.5%以上

※血糖値、HbA1cともに上記条件に該当した場合、あるいは血糖値のみ該当し糖尿病の典型的な症状がある場合は糖尿病と診断。
※症状がなく、いずれかのみが該当する場合は、再検査を行って判断する。
 
糖尿病患者全体の1割弱は1型糖尿病で、本来生体を守るべき免疫機構が自分を攻撃する自己免疫の異常や、ウイルス感染によってβ細胞が破壊されて起こり、遺伝的素因が強い。
一方、患者爆発が問題になっているのは、いわゆる生活習慣病としての2型糖尿病
こちらにも遺伝的素因がかかわっていて、そもそも日本人全体の4割が糖尿病になりやすい体質を持っている。
素因が強い人は痩せていても発症し、素因があっても弱ければ、太ったりメタボになってから発症する。

日本人のライフスタイル、とりわけ食習慣が欧米化してから50年余りしかたっていない。
肥満人口も米国に比べればまだまだ少ないのに、糖尿病はなぜかくも多いのか。
 
糖尿病の原因で槍玉に上がるのが炭水化物だが、それが原因と考えるのは早計だ。
元々、日本人は、総摂取カロリーに占める炭水化物の割合が7~8割以上と高く、1950年代には1人1日当たり400g以上摂取していた。
だが、今や200g台に下がっている。
では、何が糖尿病を増やしているのか?
 
炭水化物の減少の一方で、増えたのが肉類などの脂肪だ。
1950年代には数%にすぎなかった脂肪の摂取割合は、この60年で激増した。
主として肉由来の飽和脂肪酸は、インスリンの効きが悪くなる「インスリン抵抗性」を起こす。
食事で血液中のブドウ糖が増加すると、インスリンは追加的に分泌されるが、もともと農耕民族だったことが関係してか、インスリンの働きが良い日本人は、インスリンの分泌量が欧米人の半分以下と少ない。
このため、インスリンの需要が高まっても、これに対する十分なインスリンが分泌されず高血糖を来してしまう。

メタボで糖尿病になった人の方が運動や食事療法の効果が高い
医学の発展のおかげで、糖尿病が直接生死にかかわることは少なくなったが、問題は生命を脅かす合併症だ。
心筋梗塞脳卒中になれば、即、命取りになりかねない。
微細な血管も傷つくので、網膜や腎臓、神経にも障害が出てくる。
歯周病や勃起不全も起こって、生活の質の低下を招く。
加えて、認知症や様々ながんとの関係も指摘されている。
腎不全で透析に陥る患者の原因は、ほぼ半分が糖尿病だ。
実は、メタボの果てに糖尿病になった人のほうが、断然、治療しやすい。
 
他の大方の病気と同様、糖尿病も、遺伝的素因と環境要因が合わさることで発症するが、メタボありの糖尿病の人は生活習慣(環境素因)の影響が強く、過栄養や運動不足に基づく内臓肥満にストレスなども加わって発症する。
このため、減量がかなり有効なのだ。
一方、1型糖尿病ではないものの、インスリンを分泌するβ細胞に問題があり、「糖尿病になりやすい体質」(遺伝的素因)を持つ人たちは、その程度が強ければ痩せていても発症し、弱ければ太ってから発症する。
 
メタボのあるなしにかかわらず、糖尿病をいったん発症すると完治はしない。
いかなる状態でも血糖値が正常範囲にあるのが「完治」だが、糖尿病になった人は過食などで生活習慣が乱れると一気に血糖値が跳ね上がる。
しかし逆に言えば、適切な生活習慣を維持できれば、糖尿病はコントロールでき、健常人と変わりのない生活が送れる。
特に身内に糖尿病患者がいるという人は、早めの予防を心掛けたい。

生活習慣の改善で薬は半分に減らせる
さて、糖尿病と診断されてしまったら、あの手この手で血糖値を正常の範囲に保って、合併症を予防しなくてはならない。
手っ取り早く血糖値を下げるために様々な薬があるが、後々のことを考えて、いきなり薬に頼らず、食事療法と運動療法を3カ月ぐらい続けてみるのがいい。
メタボや肥満に関連した糖尿病であれば血糖値が改善しやすいし、そうでなくても病気の進行のスピードが抑えられる。
 
「過食して運動もしないというのでは、糖尿病治療薬の効きは限られ、数年以内に薬の数が増えていく。
生活習慣が改善できたら治療の半分は成功と言ってもよく、必要な薬は半分以下に抑えられる。
 
食生活の改善のポイントは2つ。
まず、一般の人より2~3割摂取エネルギーを控えることが原則だ。
もっとも、大食して1日3000~4000kcalを摂取していた人が、いきなり1800kcalといっても難しいので、週1回は、好きな酒や甘い物も食べながら、無理なく続けたい。
 
物は考えようだ。
量を2~3割減らせるならば、2~3割高い食品を買うことができる。
むしろ、よりおいしい物を食べられるチャンスである。
 
食事でもう一つ重要なのが、食べる順番。
まず、野菜・海草・きのこなどの食物繊維、次に魚肉の蛋白質を食べて、最後に炭水化物(穀物や芋類)を摂るようにする。
カレーライス、ラーメン、餃子、ハンバーガーなど、栄養素を一気に摂るような食事は、血糖値が上がり続けるので避ける。

そして、運動。
運動がもたらすメリットは3つある。
(1)インスリンなしで血糖値が下がる
(2)筋肉が鍛えられ糖の利用の場が増える
(3)同量のインスリンでも感受性が良くなりインスリンが効率よく効く
ことだ。

もちろん、運動には、脂肪が減って肥満が解消されるメリットも大きいが、糖尿病の人は、一般の人以上に、筋肉を維持するトレーニングが必要だ。
神経障害なども合併してくることから、高齢になるにつれ筋力の低下が著しくなり、サルコペニアという虚弱な状態に陥りやすいからだ。
 
生活習慣が破綻している人、極端な肥満の人ほど、生活習慣の改善によって、体重減少や血糖値低下の効果が出やすい。
肥満の程度がほどほどの人は、成果が見えにくいが、たとえ体重に変化がなくても、運動をすれば脂肪が筋肉に置き換わっているはずだし、サルコペニア予防などの効果は確実にある。

加齢によって悪化しても薬は最小限に抑えたい
加齢も糖尿病が進行する要因なので、時が経つにつれて、薬に頼らなくてはならなくなる人が増えてくる。しかし、治療薬の選択肢が増えたことは朗報だ。
 
1つのブレークスルーが、2009年以降に相次いで発売されたDPP-4阻害薬(GLP-1受容体作動薬)という新しいメカニズムの薬だ。
これには、インスリン分泌を増加させるインクレチンというホルモンの研究成果が生かされている。
また、2014年に登場したSGLT2阻害薬は、インスリンを標的とせず、腎臓で一度排泄される尿糖の再吸収を防いでそのまま尿から排出させて血糖値を下げる薬である。
 
糖尿病治療薬は、10歳年をとるごとに1剤ずつ増えていく。
40~50代で4剤も5剤も飲むのではなく、65歳までは1、2剤で済ませたほうがいい。
高齢になると、インスリンの自己注射は難しくなるので、その段階に至る前で踏みとどまったほうがい。
 
β細胞の働きを正常化させれば根治も望めるが、そこまでの治療法はまだない。
膵島移植も試みられてはいるが、他人の細胞を移植しようとすると、拒絶反応を抑える免疫抑制剤も必要になり、治療費も高額なので現実的ではない。
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型糖尿病は、根治法がない現時点ではまず予防、発症しても合併症の予防に努め、薬が少なくて済むよう、生活習慣の改善を進めたい。
 
1型糖尿病は、若年で発症するものとみられていたが、高齢者になってから血糖が急上昇して発症する人もいないわけではない。
また、1型は1日数回のインスリン注射が必須だったが、緩やかに進行して、2型と同様に食事と運動である程度維持できる人もいることが分かってきている。


参考
日経gooday なぜ日本人には「やせの糖尿病」が多いのか?
http://gooday.nikkei.co.jp/atcl/report/14/091100024/120200009/?ST=medical&P=1