レーザーによる白内障手術

白内障手術 レーザーで  眼球3D解析から切開、すべて自動 高額費用が課題/装置改良進む

特殊なレーザー光をメス代わりに使う白内障手術が注目されている。
眼球の目的の場所を正確に切開でき、人工レンズがうまく入らないなどのまれなトラブルも防げると期待されている。
ただし高額な機械が必要なため自費診療になることがほとんどで、費用が高くつく。
また実際にどれくらいトラブルが減るかという検証はこれからだ。

白内障は国内に患者が約4000万人いるとされ、80歳代だとほぼ100%に症状がある。

レーザーを使う目の手術の一つにフェムト秒レーザーがある。 
フェムトとは1000兆分の1のこと。
その名の通り、1000兆分の1秒という極めて短時間の光パルスを連続的に照射するレーザーを使う。
狙った場所に照準を合わせ、一瞬で目の組織を蒸発させる。
レーザーを移動しながら針の先で突くように連続的に照射を繰り返し、正確に組織を切断する。
光が当たっている時間が1フェムト秒と極めて短いので、近くの組織への影響が少ないのが特徴だ。
 
手術では、水晶体が入っている袋の前面(前のう)にレーザーを円形に照射し、1000分の1ミリの精度でまん丸に切開する。
所要時間は数秒で、外科医のメスによる手術より短い。
 
続いてレーザーで濁った水晶体に切れ目を入れ、超音波で砕き、角膜に2ミリ程度の小さな穴を開けてストロー状の器具で吸い上げる。
この穴から折り畳んだ人工レンズを入れて中で広げ、固定する。
 
レーザー照射に先立って、まず光干渉断層計(OCT)という装置で眼球の大きさや形を3次元的に正確に測る。
人それぞれに違う眼球の形に合わせて、どこをどれだけ切開すればいいかをコンピューターではじき出す。
 
測定やレーザーの照射はすべてコンピューターが自動で制御する。
医師は自らメスを使うのではなく、手術が異常なく進んでいるかどうかを監視するのが主な役割だ。

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フェムト秒レーザーを使った白内障手術は2008年にハンガリーで初めて実施され、50カ国以上に広がった。日本の大学病院では東京歯科大学水道橋病院(東京・千代田)が第1号。
13年に装置を導入し、これまでに500例以上を実施した。
手作業だった手術を自動化し、見え方の質を向上させた。
 
例えば遠近両用レンズや乱視を矯正するレンズは一定の方向に固定する必要があり、そのためには正確な円形に切開することが重要だ。
通常の手術では医師の腕に左右されるが、この方法なら機械で正確に円形にできる。
 
熟練した医師でも、完全に満足のいく手術は7割程度。
フェムトなら95%はうまくいき、「神の手」は要らなくなる。

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ただ定着には時間がかかりそうだ。
装置は国の承認を得ているが保険点数は従来の手術と同じ。
ほとんどの医療機関では自費診療としており、費用は東京歯科大の場合で50万~60万円に上る。

ただフェムト秒レーザーで患者にどんなメリットがあるのかは、はっきりとわかっていない。
「メスの方が切開面がきれい。フェムトが患者に恩恵を与えているというエビデンス(科学的証拠)はまだない」と批判する専門家もいる。
 
実際、これまで国内で導入された手術装置は30台程度。
1台数千万円以上と高額なため、多くの病院が二の足を踏む。
年間約140万例の白内障手術のうち、フェムトによるものは1万例にも満たない。
実績が増えないと保険適用は見えてこない。
 
装置が今後さらに進化し、安価になれば使いやすくなる。
レーザーと超音波の装置を一体化するなどの改良は、2~3年以内には実現するだろう、と専門家は見る。

高齢化社会の進行に伴い、白内障患者は増えるとみられる。
どんな手術法を選択するか、医師と相談しながら考えていく必要がある。

 
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参考
日経新聞・朝刊 2016.10.24