オートファジー

ノーベル賞「オートファジー」、難病治療の研究広がる

ノーベル生理学・医学賞に決まった大隅良典・東京工業大学栄誉教授が解明した「オートファジー(自食作用)」を活用して病気の治療を目指す研究が広がっている。
順天堂大学慶応義塾大学はパーキンソン病の原因物質を取り除く化合物を特定。
東京医科歯科大学膵臓がん、新潟大学は肝臓がんなどの治療に使えそうな物質を見つけた。
近い将来、難病治療を大きく変える可能性もある。
順天大と慶大の研究グループが見つけた化合物は、オートファジーの働きを高めることでアルファ・シヌクレインを取り除く。
シヌクレインが異常にたまるようにしたラットの細胞を使い、1600種類の化合物を試して、ある化合物が効果が高いことを突き止めた。
 
細胞にふりかけて2日後に調べると、オートファジーが促進された。
原因たんぱく質が少なくなって神経細胞の死滅も減った。
動物実験で安全性を確かめ、3年後の臨床試験実施を目指す。
 
がんの治療に応用する研究も進んでいる。
一般に、がん細胞はオートファジーを活性化させることで、自らの細胞内のたんぱく質の分解を促し、増殖に必要な栄養素を得る。
しかし、その働きが過剰になると、がん細胞が細胞内のたんぱく質を分解し尽くして死ぬ。
 
東京医科歯科大学の研究グループは、オートファジーを過剰に働かせることで治療する薬の開発に取り組んでいる。
マウスを使った実験で、オートファジーを過剰に活性化させてがんを縮小する可能性のある化合物を見つけた。
従来にない新たなメカニズムの抗がん剤開発につなげる。
 
肝臓がんでは、オートファジーが働かないと、がん細胞の増殖を促すたんぱく質が増えやすくなる。
新潟大の研究グループは、肝臓がんの細胞に蓄積するp62というたんぱく質に注目する。
 
正常な細胞では、p62はオートファジーによって分解される。
肝臓がんの細胞はオートファジーの働きを抑えることでp62を増やし、増殖しやすい環境を作り出す。
この研究グループはp62の機能を弱めてがん細胞の増殖を抑える化合物を見つけた。
オートファジーの機能を高めてp62の分解を促す物質探しにも取り組む。

 
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参考
日経新聞・朝刊 2016.10.10



パーキンソン病・がん…「掃除役」 治療に活用

オートファジーの仕組みが明らかになるにつれ病気との関連も次第に分かってきた。
オートファジーは細胞内のいわば「掃除役」で、正常に働かないと様々な病気をもたらす。
パーキンソン病やがんにも関わるとされ、欧米を中心に治療薬開発が繰り広げられている。
 
国立衛生研究所(NIH)は、パーキンソン病神経細胞でオートファジーが正常に働かず、異常なミトコンドリアが放置されて起こる可能性が高いことを見いだした。
ミトコンドリアは「細胞の発電所」と呼ばれる重要な器官だ。
 
大隅氏と共同研究をしていた東京大学の水島昇教授は、神経変性疾患や腫瘍、白内障、病原菌の分解にオートファジーが関わっていることをマウス実験で示した。
 
水島氏はさらに、横浜市立大学とともに脳の神経細胞に鉄分がたまり知的障害などになる「SENDA病」の患者では、オートファジーの機能が低下していることをみつけた。
 
大阪大学は2015年に「オートファジーセンター」を開設した。
基礎研究と医学部内の10の診療科を連携させ、様々な病気の治療への応用を探っている。
 
一部のがんではオートファジーの機能が過剰になっていることも明らかになっている。
米国やオランダではオートファジーに関連する小器官「リソソーム」の働きを抑制するマラリア治療薬「クロロキン」を使って、がんを治療する臨床試験も進んでいる。

参考
日経新聞・朝刊 2016.10.4