大動脈解離

血管が裂ける大動脈解離 高血圧に忍び寄る危険 生活習慣改善で予防を

大動脈は体の中で最も太い血管で、心臓から送り出された血液はここを通って全身に行き渡る。
この血管が裂けてしまう病気が大動脈解離だ。
発症すると直ちに救急車を呼んでも、病院に運ばれる前に亡くなるケースも多い。
このため起きてからではなく、できるだけ予防につとめることが大切だ。
直接の原因ははっきりと分かっていないが、高血圧などが関係していると考えられている。
正しい生活習慣を心掛けて予防したい。

大動脈解離は元気に過ごしていた人が前触れもなく突然発症し、亡くなる例が多い病気だ。
患者は50代以降の男性を中心に、国内では年間で約1万人が発症しているとみられる。

胸や背に鋭い痛み
大動脈の壁は3層構造になっており、血液が接する側から内膜、中膜、外膜と呼んでいる。
内膜に何らかの原因で傷ができると、傷から穴が開き、血液が流れ込む。
そうなると中膜がはがれ、裂けてしまう。
これが大動脈解離だ。
大動脈の壁が瘤のように膨らむ大動脈瘤の一種として、解離性大動脈瘤と呼ぶこともある。
 
大動脈は心臓から出て首に近い部分を通ってカーブし下に向かっており、横隔膜を挟んで胸部と腹部に分かれる。
解離が起きて血管が裂けているときは、その部分にこれまで体験したことがない強い痛みを感じる。
 
胸や背中、腰などに体が引き裂かれるような、突き刺さるような痛みを感じたと訴える人が多い。
まれに痛みが発生せず、意識障害や脚のまひが起きたり全身の倦怠感を覚えたりするケースなどもある。
 
大動脈解離によって起こる病態は主に3つだ。
心臓に近い部分の大動脈の外膜が破れて出血すると、周囲に血液がたまって心臓が動けなくなる状態などを引き起こす。
こうなると死に至る危険が増す。
 
また、大動脈が枝分かれする部分に解離ができた場合は血液の流れが悪くなる。
これが冠動脈で生じると心筋梗塞などを、頭へ向かう動脈で起こると脳梗塞などを引き起こす。
血液が届かない臓器は働きがおかしくなる。
さらに、大動脈にある弁がうまく閉じなくなって心臓に血液が逆流してしまう場合もある。

内膜が傷つき穴が開く理由は明確になっていないが、多くは高血圧が関係しているとみられている。
血管の内圧が高くなると、それに比例して内膜が引き裂かれる力が大きくなってしまうと考えられる。
 
血管の壁が弱くなる病気も、大動脈解離の発症に関係しているようだ。
代表的なのが遺伝が関係するマルファン症候群やロイス・ディーツ症候群などだ。
家族や親戚に解離を含む大動脈に関する病気を患った人がいたら、注意した方がよい。
本人が高血圧なら特に気をつけたい。 
大動脈解離は治療しないと高い確率で亡くなるので、すぐに対処する必要がある。
手術で解離した大動脈を人工血管に置き換えるのが一般的だ。
最近はステントグラフトという器具を使った血管内治療も実施されるようになっている。
足の付け根の動脈からカテーテルを入れ、患部で血管を補う。
患者の負担も少ない。
胸や腹を開く手術では難しくても、この方法で治療できる場合がある。
 
会社員の男性Aさん(55)は20年ほど高血圧に悩まされ、降圧剤を服用していた。
昨年8月、仕事の息抜きにアイスクリームを食べようとしたところ、肩と胸の間に激痛が走り、動けなくなってしまった。
 
そのときAさんの頭には親戚が大動脈破裂で亡くなったことが思い浮かんだという。
Aさんはすぐ病院に運ばれ、人工血管を入れる手術を受けた。
リハビリを続け、数カ月後に職場復帰を果たしたAさん。
発症後の対応が素早くいった例だ。

温度差を極力回避
大動脈解離の予防はなかなか難しいが、食生活などの生活習慣に気を配れば、リスク低減につながるといわれている。
例えば、血圧を上げないように食塩の多い食品を避けたバランスのよい食事をとるとともに、適度な運動を心掛ける。
 
たばこを吸っている人はやめ、酒は飲みすぎないようにするなど、生活習慣病対策と共通する取り組みが有効だ。
一命を取り留めたAさんも、塩分の摂取量を意識するとともに、ウオーキングや体操などに取り組んでいる。
 
日常生活の中で血圧が激しく変動するのを避けることも大切だ。
例えば、冷房や暖房が効きすぎた部屋から外へ出るときなどに血圧が上がりやすいので、外気との温度差をなるべく少なくするようにしよう。
 
動脈の病気は静かに忍び寄る。
正しい知識を備え、日ごろから行動に気を配ることが重要だ。

 
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参考・引用
日経新聞・夕刊 2014.8.8