骨盤臓器脱

骨盤臓器脱 広がる治療法

子宮や膀胱、腸が、ゆるんだ膣を通じて体の外に出る「骨盤臓器脱」。
根治をめざして器具で臓器をつり上げる手術で、3年前に腹腔鏡を使った新しい方法が公的医療保険の適用となった。
治療の選択肢が広がる一方、人工物を体内に入れることに慎重な意見もある。

体への負担少なく
Aさん(72歳、女性)は3年前、しゃがむと股間にピンポン球のようなものが触れるのを感じた。
歩きにくく、頻尿になったため、某病院を受診し、骨盤臓器脱と診断された。
 
これは、膣の近くにある臓器が、膣の壁を押して中に落ち込み、体の外に出てしまう女性特有の病気。
出るのが膀胱の場合は「膀胱瘤」、子宮だと「子宮脱」、直腸ならば「直腸瘤」と呼ばれる。
日本人は膀胱瘤が最も多く、子宮脱を併発するケースもある。
 
主な原因は、出産や加齢によって、膀胱や子宮などを支えている骨盤底筋が弱くなることだ。
露出した膣壁などがすれて出血したり、排尿や排便に障害が出たりする。
海外のデータから、骨盤臓器脱の女性は「20~59歳の3割」「出産経験者の半数」という推計がある。
 
この女性は昨年8月、3年前に訪れた病院で腹腔鏡を使った仙骨膣固定術(LSC)という手術を受けた。おなかにカメラや器具を入れるための穴を4カ所あける。
子宮の上部3分の2を切り取り、膀胱と膣の間、直腸と膣の間にある組織の中にポリプロピレン製のメッシュをそれぞれ埋め込む。
その後、メッシュを、膣とつながる子宮頸部と、背骨の下の仙骨という部分に縫い付ける。
 
固定されたメッシュが「壁」の役割を果たし、膀胱などを支えて膣の中に落ち込まないようにする。
 
手術は全身麻酔で3時間程度。
女性はいま普段通りの生活を送る。
ずっとトイレを気にし、体操もしづらく恥ずかしかった。
手術してよかったと喜ぶ。
 
メッシュを体内に固定する手術は、膣からメスを入れて膣壁を切って、膣と膀胱などの間の組織にメッシュを入れる方法がある。
腹腔鏡での手術はこの方法と比べ、おなかの中の状態を見やすいため、メッシュを固定しやすい。
膣壁を切らなくてよく、痛みが少なくて再発率も低いという。
 
腹腔鏡手術によって術後の排尿困難が起こることはほとんどない。
一方、膣壁を切る方法では5%ぐらいに排尿困難が起こる可能性がある。
腹腔鏡手術は膣からメッシュを入れるよりも、尿管を傷つけるリスクが小さい。

長期の治療成績これから
2014年に保険適用になった腹腔鏡での手術は、長期の治療成績などわかっていないこともある。
 
メッシュを体内に入れることには慎重になるべきだ、と指摘する専門家もいる。
人工物を長く入れておくと、拒絶反応が起き、人工物と接する臓器を摘出しなければならないことがあるという。
 
膣壁を切る手術では、切り口周辺で拒絶反応が起き、メッシュが膣などの壁を突き破ることもある。
 
腹腔鏡での手術は膣壁を切らない分、メッシュが壁を突き破るリスクは少ないと考えられているが、長期的なデータはまだない。
 
12年から先進医療として腹腔鏡での手術を始めた某大学教授(産婦人科)は「直腸と膣の間の組織は特に薄く、腹腔鏡でもメッシュが出てしまう可能性はあり注意が必要だ。また、骨盤の底は血管や神経が集まっている。内視鏡の高い操作技術が求められる」と説明する。
 
メッシュを使わない手術には、筋膜などを縫い縮めて強くする方法や、妊娠・出産、性交渉の必要がなければ、膣を閉じる方法もある。
手術以外では、膣にペッサリーを入れて、子宮が落ち込まないようにする方法や、筋肉を鍛える体操もある。
 
弱くなっている部分などを部位ごとに診断して、最適な治療法を提案してくれる医師に相談したい。

 
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参考・引用
朝日新聞・朝刊 2017.3.22