糖尿病とがんの密接な関係
日本人の２人に１人ががんになり、６人に１人（２０１２年の推計では約２０５０万人）が糖尿病とその予備群と推計されている。がんと糖尿病はそれぞれ「国民病」と呼ばれる身近な病気だ。
一見、まったく関係がなさそうなこの二つの病気には、意外にも密接な関係があることが分かってきた。
日本糖尿病学会と日本癌学会の合同委員会の報告では、糖尿病の人はそうでない人に比べて１.２2倍がんになりやすく、特に、大腸がんになるリスクは１.４倍、肝臓がんは１.９７倍、すい臓がんは１.８５倍も高いことがわかった。
合同委員会の報告は、男性約１５万人、女性約１８万人を１０年間追跡調査した結果だ。
調査開始から３年以内に発症したがんは除いている。
がんと関連があるのは主に２型糖尿病の場合だ。
加齢、男性、肥満、運動不足、不適切な食事（赤肉、加工肉の摂取過剰、野菜・果物・食物繊維の摂取不足）、過剰飲酒、喫煙は、２型糖尿病とがんに共通の危険因子であり、そうした生活習慣があることも糖尿病の人にがんが多い要因の一つとみられている。
２型糖尿病では、ブドウ糖を筋肉や脂肪に取り込むインスリンの働きが悪くなるため（これを「インスリン抵抗性」と呼ぶ）、すい臓がたくさんインスリンを分泌する。
つまり、「インスリン抵抗性」によって、「高インスリン血症」になる。
インスリンは細胞を成長させ増殖させるホルモンなので、それが増え過ぎると細胞のがん化につながるのではないかと考えられている。
高血糖自体が起こす「慢性の炎症」が、がんを引き起こしているとの説もある。
また、肥満（特に内臓肥満）により、脂肪細胞から分泌される「アディポネクチン」という糖尿病や動脈硬化を抑制する善玉ホルモンが低下することも、がん化の一因と推測されている。
肝臓がんリスク上昇の原因として、糖尿病の人に多い脂肪肝との関連が指摘されている。
脂肪肝とは肝臓の３０％以上が脂肪化している状態で、自覚症状はない。
これまで日本人の肝臓がんは、Ｂ型・Ｃ型肝炎ウイルスまたはアルコール性肝炎が原因の人が多かったのだが、最近は非アルコール性脂肪肝炎（ＮＡＳＨ）から肝硬変、そして肝臓がんになる人が増えている。
また、すい臓はインスリンを分泌する臓器であり、糖尿病の人がすい臓がんになりやすいことは国内外で以前から指摘されてきた。
糖尿病の陰にすい臓がんが隠れていることもある。
暴飲暴食や心身のストレスもなく、特に思い当たる原因がないのに、なぜか血糖コントロールが悪化してきた場合には、がんが隠れている場合があるので、腹部超音波検査や大腸内視鏡検査等の精査が必要なこともある。
糖尿病の人は、食事療法、運動療法、禁煙、節酒、そして薬物療法で、血糖値を良好にコントロールすることががんのリスクの軽減にもつながる。
糖尿病は初期には自覚症状がないから、１年に１回は健康診断を受けて糖尿病かどうかチェックすること、もし血糖値が高いと言われたら適切な治療を受けて血糖値をコントロールすることが重要だ。
なお、一時期、インスリン注射などの糖尿病治療薬によってがんが増えるのではないかと言われたことがあったが、現時点ではそういった証拠はなく心配する必要はない。
血糖値が高いと、手術後に傷が治りにくく感染症になりやすくなり、抗がん剤の効き目が悪くなる場合がある。
そのため、がんの患者さんにとっても、手術前後、抗がん剤治療中の血糖コントロールは重要だ。
地域のがん専門病院には、糖尿病専門医がいない場合が多い。
したがって、糖尿病の人ががんの治療を受ける時は、むしろ糖尿病専門医もいる「がん診療連携拠点病院」や大学病院で治療を受けたほうがよい。
手術が必要な患者が、
（１）空腹時血糖値２００mg/dl以上
（２）食後血糖値３００mg/dl以上
（３）ＨｂＡ１ｃ１０％以上
のどれかに当てはまる場合には、先にインスリン療法で血糖値を下げてから手術を行う。
血糖値が非常に高いまま手術をすると、合併症を起こしやすいため手術自体のリスクが高くなってしまうからだ。
インスリンを使えば、通常は２週間くらいで血糖値が正常に近い値になる。
がんの専門医と相談して糖尿病治療と手術のどちらを優先するか検討する、ほとんどのがんでは、血糖コントロールのために２週間くらい手術の時期が遅れても悪影響はないとされている。
一方、糖尿病ではない人でも、がんの抗がん剤治療の際に吐き気・嘔吐の予防薬として使うステロイド薬の内服や注射によって血糖値が上がる場合がある。
ステロイド薬は血糖値を上げる作用があり、患者さんによっては一時的に糖尿病になる場合がある。
ステロイド薬によって高血糖になった人に対しては、その薬を使う間だけインスリン療法を行うが、薬の作用時間、患者さんの食事の量によってインスリンの量を調整する。
もともと糖尿病がある人はさらに注意が必要なので、これも糖尿病専門医のいる病院でがん治療を受けたほうがよい理由だ。
健康診断で「血糖値が高い」と言われたまま、放置している人は少なくない。
血糖値が高いだけでは特に症状はないが、糖尿病は、じわじわと動脈硬化を促進させ心臓病と脳血管疾患、さらに認知症のリスクも増やす。
糖尿病治療で重要な「ＡＢＣＤＥ」があります。
Ａ アルコール（Alcohol）は少量に
Ｂ 体重（Body weight）の適正化
Ｃ 喫煙（Cigarette smoking）はストップ
Ｄ 食事（Diet）は適量に
Ｅ 毎日歩いて運動（Excercise）
だ。
仕事や家事、育児が忙しいと、つい不規則な食生活をして、運動不足になりがちだが、がん、心臓病、脳血管障害、認知症といった重大な病気を予防するためにも、血糖値が高い状態を放置せず、早めの治療と生活習慣改善を心がけよう。
