原因不明の疾患 解決へ病院連携 遺伝子解析と症状照合 3割で確定

原因不明の疾患 解決へ病院連携 遺伝子解析と症状照合 3割で確定、治療の道も

患者数が少ないため、遺伝子の異常が原因とみられながら病名が確定せず、適切な治療法を受けられない患者は、国内に少なくとも3万人はいるという。
これまであまり顧みられなかった、この「未診断疾患」の問題を解決しようと、全国の病院が協力する体制が整ってきた。
海外の同様な事業と連携して治療につなげる例も出ている。
 
「未診断疾患イニシアチブ」と呼ぶ事業は、文部科学・厚生労働・経済産業の3省が共同で設立した日本医療研究開発機構が2015年度に着手した。
大学病院を中心に全国に34の拠点病院を指定し、周辺の協力病院と連携して病名が確定していない患者を専門に診察する。
 
病名が分からない患者の家族は、やるべきことをやっていないのではと不安にさいなまれている。
手助けする基盤がやっとできた。

この診断の特徴は、患者の遺伝子の解析と症状を匿名化したデータベースで徹底的に突き合わせることだ。
 
珍しい症状のためかかりつけ医院で病名は分からなかったが、このイニシアチブに加わる病院を通じて診断した結果、既に知られている病気の中で確定できる例は多い。
その割合は約3割だ。
残る7割をいかに少なくしていくかが次の目標となる。
 
遺伝子の異常と症状が同じ患者が2人以上見つかれば、新しい病気として確定できる。
ある大学病院で15年に確定した「武内・小崎症候群」はその代表例だ。
血液中の血小板が大きくなるとともに数が減少し、むくみや発達障害などを引き起こす。
根本的な治療法はまだないが、症状を抑える対策は可能だ。
 
未診断の患者のデータを世界中で突き合わせれば、効率よく解決できるのではないか。
欧米の関連機関が11年から「国際希少疾患研究コンソーシアム」として活動しており、日本医療研究開発機構もこの枠組みに加わった。
武内・小崎症候群の情報は米ミシガン州の2歳の男児の診断に役立った。
カナダでは15人がこの病気と判明し患者家族の会が発足したという。
 
日本の参加によって治療の道が開けた例も出ている。
リトアニアの3歳の女児はある酵素の遺伝子の異常で発症する「ハンター病」だったが、同国内では判定できなかった。
国内の大学病院で診断がつき、ビタミンB2の大量投与で症状を緩和できた。
 
診断する体制は整ってきたが、市民に事業の内容が正確に伝わっているわけではない。
 
例えば親子とセットで遺伝子を採取できない場合、この事業には加われない。
患者の遺伝子の異常を正確に突き止めるため両親の遺伝子と比較する作業が必要なためだ。
主な症状が痛みを訴える場合も、外見から詳しい病状を判断できないためやはり対象外となる。
 
外来を訪れる患者と医療機関が円滑に計画を進めていけるよう、分かりやすい情報の提供方法も検討していく考えだ。


遺伝子異常による病気 推定7000種 新たな検査技術、解明に欠かせず
単一の遺伝子の異常で起きる病気は現在、約7000種あると予想されている。
しかし実際に遺伝子異常が原因と確定した数は、約3000にとどまる。
遺伝子解析技術の精度向上と解析コストの低下は、この分野を進展させる大きな原動力になる。
 
未診断疾患の解決のためには、さらに新しい検査技術が必要になると考えられている。
血液から採取した遺伝子だけでは、疾患部位で起きている本当の現象がまだつかめない。
遺伝子の異常の数が2個、3個と増えていく病気の場合は、一段と診断を下すことが難しくなるからだ。
 
未診断疾患の正確な患者数もつかめていない。日
本医療研究開発機構の医療機関に対するアンケート調査から約3万人と推計されているが、患者と接する医師らの間では「10万人単位の規模」という意見が多い。
未診断疾患イニシアチブは病気や患者の実態に合わせて臨機応変に運営していく必要がある。

参考・引用
日経新聞・夕刊 2017.12.28



<関連サイト>
未診断疾患イニシアチブ(IRUD)
https://www.amed.go.jp/program/IRUD/

AMEDによる未診断疾患イニシアチブ<IRUD>の「仕組み作り」を国際誌で報告、更なる国際連携の出発点に―診断がつかないまま悩んでいる難病等の患者さんに光を―
https://www.amed.go.jp/news/release_20170706-02.html

未診断疾患イニシアチブの成人版がスタート【
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/mag/btomail/16/07/19/00085/