突然死につながる狭心症・心筋梗塞

突然死につながる狭心症心筋梗塞動脈硬化がなくても油断は禁物

がんに次いで、日本人の死因第2位にランクインする心疾患。
その多くを占める狭心症心筋梗塞は、心臓に栄養を送る血管(冠動脈)が狭くなったり詰まったりして血流が途絶えることで起こる病気だ。
狭心症心筋梗塞を招く誘因は何か、突然死という最悪の事態を避けるためにはどう対処すればいいのだろうか。

血管が狭くなる狭心症と、完全に詰まってしまう心筋梗塞
狭心症心筋梗塞がなぜ起こるのか、原因は?
狭心症心筋梗塞の多くは、血管が硬くなる動脈硬化をベースに発症する。
動脈硬化を引き起こす要因はいくつかあるが、なかでも関係が深いのは、コレステロールだ。
食生活の欧米化や運動不足などさまざまな要因により、悪玉と呼ばれるLDLコレステロールが血液中に増え、過剰になると血管の壁にくっついて、血管が硬く、厚くなっていく。
この状態が動脈硬化だ。
 
動脈硬化になると、血液の流れが滞る。
4車線の道路に例えると、土砂崩れが起こった時、土砂が押し寄せて4車線が3車線へ、3車線が2車線へと狭くなって車の流れが悪くなるように、心臓に栄養を送る3つの動脈(冠動脈)がコレステロールの蓄積によって詰まりかけ、酸素が足りなくなった状態が狭心症だ。
さらに動脈硬化が進んで、コレステロールが詰まった「プラーク」というコブが破裂して血栓ができ、冠動脈が完全に詰まって心臓の筋肉が死んでしまうのが心筋梗塞だ。
道路に例えると、4車線が土砂で完全に寸断されて、車が通れなくなってしまった状態だ。

動脈硬化は一種の老化現象で、肌にシミやシワができるように、年をとるにしたがって増加する。
特になりやすいのは、コレステロールのバランスが崩れた脂質異常症の人だ。
また、糖尿病や高血圧、喫煙なども動脈硬化の原因となり、狭心症心筋梗塞の進行を加速させるため、注意しなければならない。

狭心症は、どのような時にどのような症状で発症するのか?
狭心症の症状は、心臓が痛いというより、胸が重くギューッと締めつけられるような圧迫感だ。
胸とは限らず、歯や首・肩(特に左肩)・背中に響くこともある。
 
狭心症は、運動している時に発作が起きているかどうか、症状が安定しているかどうかなど、状況によっていくつかのタイプに分かれる。
最も多いのが「労作性狭心症」で、普段は何ともないのに、体を動かすと発作が起こり、少し休めば治まるのが特徴だ。
具体的にいえば、早歩きやジョギング、階段や坂道を上がる、電車に乗ろうとして駆け出す、布団の上げ下げや買い物中に重い荷物を持つ、といった状況下で発作が起こる。
 
心臓は24時間、常に拍動し、全身に血液を循環させている。
安静時はそれほど多くの血流を必要としないが、運動する時は多くの血液を全身に送らなければならない。この時、ポンプの役割を果たす心臓自身の筋肉も、より多くの血液を必要とする。
ところが、3つの冠動脈のうち1本か2本、時には3本とも狭くなっていると、短時間に大量の血液を供給することができず、心臓が一時的に酸欠状態に陥り、狭心症の発作が起こるのだ。
 
このほか、安静にしていても起こる「安静時狭心症」、狭心症発作が頻回に起こり、プラークが破裂する一歩手前の状態になっている「不安定狭心症」などがある。

血圧は冬場に高くなるが、狭心症心筋梗塞はどうか?
一般に、気温が低いと血管は収縮して血圧が上がる。
この現象と関連して、狭心症心筋梗塞の患者さんも、冬になるとおおむね夏の2倍くらいに増加する。
例えば、冬場に熱いお風呂から寒い脱衣所へ移動したら、急激な温度差で血管が収縮して血圧が跳ね上がる。
血圧が急上昇する現象を「血圧サージ」というが、こうなると血管への負担も急増する。
ベースに動脈硬化がある人は、もともと狭い血管がさらに狭くなって血流も悪くなり、狭心症の発作へとつながっていく。
 
また、狭心症の発作は月曜日や朝方に多いともいわれる。
週末ゆったり過ごしている時は体を休める副交感神経が働くのに、仕事が始まる月曜日になると、血圧や心拍数を上げる交感神経へとスイッチが急に切り替わり、バランスが崩れるからだ。
ちなみに24時間の時間帯の中では、朝の起床時にも同じことがいえる。

カチカチの血管より、ドロドロの血管の方が詰まりやすい
狭心症の延長線上に心筋梗塞があるということですが、狭心症が悪化して、血管が狭くなればなるほど心筋梗塞を起こしやすいのか
意外なことに、そうとは限らない。
血管の詰まり具合(狭窄度)が99%の場合と75%の場合を比べると、完全に詰まりやすいのは75%しか詰まっていない場合であるとの報告もある。
狭窄度と心筋梗塞のなりやすさは、実は比例しない。
 
詰まる物質の性状も大切だ。
例えば、アスファルトと泥のぬかるみ、この2つの道のうち、歩きにくいのは水分を含んだ泥の道だ。
同じように、コレステロールでドロドロとした血管は完全に詰まりやすく、反対にカチカチの場合は比較的詰まりにくいというデータもある。
血管が狭くなるほど心筋梗塞になりやすいとはいえない上、性状によっても異なる。

血管がカチカチになりやすいのは腎臓病で血液透析を受けている患者、喫煙歴が長い人や、脂質異常や高血圧を長年わずらっている人、子どもの頃に川崎病になった人など。カルシウムが血管に沈着して石灰化する傾向がある。

心筋梗塞はある日突然起こるイメージがあるが、狭心症を経て発症する割合はどのくらいなのか
心筋梗塞のうち、約60%は狭心症を経て発症する。
しかし、心房細動などが原因で心臓に血液の塊が存在していると、それが急に詰まって、突然、心筋梗塞になることもある。
また、倒れる直前まで心電図が正常だった人も多く、心電図が正常なら冠動脈が正常とはいえないのが予防の難しいところだ。
例えば、2カ月前の健康診断で心電図が正常だった人が、10日前から胸の痛みなどの症状が出るようになり、心筋梗塞で運ばれた時には冠動脈が3本とも詰まりかけていて、うち2本は深刻な状態だったというケースもある。
 
心電図や心エコー検査だけで狭心症心筋梗塞を見つけることは困難だ。
そこで有効なのが心臓CT(冠動脈CT)だ。
これは、心臓を360度の方向からX線で撮影するCT検査で、得られた画像を3次元に合成し、冠動脈の狭窄や詰まり具合を詳しく把握することができる。
高精度の心臓CTを導入している病院はまだ多くないが、もし、動脈硬化が心配で心臓ドックを受けようと思ったら、心臓CT検査の有無に注意して施設を選ぶといい。

みぞおちが痛くなって、胃潰瘍と間違えることも
胸が重苦しくなっても、少し休んで治まる程度なら受診するかどうか迷う。受診するタイミングはどのように判断すればいいのか?'''
着目すべきは、発作の頻度や長さだ。
以前は2分で治まったのが5分続くようになった、階段を3階まで上がると苦しくなっていたのが2階あたりで苦しくなってきた、月1回だった発作が週1回に増えたなど、発作が頻回になり、症状が重く長くなったら、「不安定狭心症」である可能性が高く、できるだけ早く受診したい。

初めて発作が起きた時も注意が必要となる。
何の症状もなかった人が発作を起こしたら、まずはその時点で受診するべきだ。
新たに発症した狭心症も「不安定狭心症」の一つと考えられ、一番危険な状態だからだ。
年のせいだろう、少し休めば良くなるから大丈夫、と自己判断してはならない。
症状が出た時には血管の70%以上が詰まっていることが多いので、「あの時、病院に行っておけば・・・」と後悔する前に受診しよう。
 
また、典型的な症状だけにとらわれないことも大切だ。
糖尿病の合併症で神経障害がある人は、神経が鈍く痛みを感じにくいため、頭がぼーっとする、疲れやすい、少し歩いただけで息が上がる、という程度の症状しか出ないこともある。
高齢者も同じで、食欲不振を訴える高齢者の心電図をとってみたら、心筋梗塞だと判明した例がある。
また、みぞおちがキューッと痛くなって、胃潰瘍など消化器の病気と間違えることもある。
狭心症心筋梗塞にはさまざまな症状があることを知ってほしい。

参考・引用
日経グッデイ 2018.2.22