花粉症に効果 「舌下免疫療法」

薬数滴で花粉症に効果 「舌下免疫療法」広がる

体質改善はかる舌下免疫療法
スギ花粉やダニによるアレルギーの治療で、口の中に薬剤を含むだけで体質改善を図る「舌下免疫療法」が広がりつつある。注射が必要だった従来の方法より簡単で、ダニ用は子どもも受けられる。スギ花粉用も従来の液体薬に加えて新たに錠剤が登場しそうだ。
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 川崎市の会社員の男性(46)は、高校生のころからスギ花粉症に悩まされてきた。飛散期には鼻水やくしゃみが止まらず、ひどい時は鼻づまりでなかなか寝付けない。
 市販薬を1日2回服用してきたが、2年半前から日本医科大武蔵小杉病院(川崎市)で舌下免疫療法を続けている。処方されたスギ花粉用の液体薬「シダトレン」を毎朝、舌の下に数滴落とす。半年ほど続けると、翌年の飛散期から症状が和らいだ。「だるさが出る市販薬の使用量が大幅に減り、効果を感じる」
 日本医科大武蔵小杉病院では、これまでスギ花粉とダニで約100人が舌下免疫療法を受けた。松根彰志・耳鼻咽喉(いんこう)科部長は「比較的安全な治療という印象で広がっていくだろう」と話す。
 花粉などによるアレルギー性鼻炎は、体内に入った原因物質(アレルゲン)に体が過敏に反応して起きる。舌下免疫療法は、アレルゲンを含む薬を1日1回、舌下に1、2分間含み、自然に吸い込むよりも大量のアレルゲンを体内に取り込む。体の免疫反応を変え、異物として認識しないように徐々に慣らしていく仕組みだ。
 同じ免疫療法には、注射で薬剤を体に入れる「皮下免疫療法」がある。ただ、痛みを伴う上に頻繁に通院する必要があった。舌下免疫療法は月1回の通院で処方された薬を飲めばよく、強い全身反応が起きてショック状態になる「アナフィラキシー」のような副作用も少ないとされる。
 ただし注意は必要だ。初めて薬を飲む際は医師のもとで30分待機する。最初は少量から始め、徐々に増量していく。飲む前後2時間は激しい運動や飲酒などを避ける。
 国内初の舌下免疫療法薬シダトレンは2014年秋に発売された。さらに15年にはダニ用の錠剤「アシテア」「ミティキュア」も発売されている。
 治療を長く続けるほど、効果が高まることもわかってきた。
 早くから舌下免疫療法に取り組む「ながくら耳鼻咽喉科アレルギークリニック」(東京都品川区)が患者約130人にアンケートしたところ、治療効果を「非常に良い」と答えた患者は治療開始1年目の4割から、2年目と3年目には6割を超えた。前年と比べた症状が「非常に良い」とした人も47%→64%→71%と年々増えている。
 同クリニックは、スギ花粉とダニの薬の併用にも取り組む。副作用を避けるため、服用開始をずらすのが原則だ。まずスギ花粉から始めて、より副作用が出やすいダニを数カ月後から併用するケースが多い。半日ほど間隔をあけて飲んでもらうが、間隔が5分でも副作用は増えないという海外の報告もあるという。
 どれぐらい治療を続ければよいのかはまだ詳しくわかっていない。診療指針では最低2年以上、3~5年は続けるよう推奨している。永倉仁史院長は「今はまだ治療期間や効果が漠然としている。患者さんのためにもゴールを明確にすることが大切だ」と話す。
体質改善、治療続けるほど効果
 製薬会社の推計によると、国内で舌下免疫療法を受けたのはスギ花粉で約9万人、ダニで計約5万人。12歳以上が対象だったが、ダニに対する二つの薬は今年2月に年齢制限がなくなり、子どもも使えるようになった。スギ花粉でも、子どもが使える錠剤タイプの新薬「シダキュア」が昨秋に承認を受け、薬価の決定を待つ。
 東京都の調査では、14歳以下のスギ花粉症の推定有病率は16年度が40%。前回06年度の26%から大幅に増えた。子どもを含む約1千人を対象にしたシダキュアの治験では、薬を飲んだ人は、効果のない偽薬を飲んだ人に比べ、鼻の症状などの指標が3割以上改善した。治験にかかわった日本医科大の大久保公裕・主任教授は「子どもでも、大人と同じくらいの効果があった」と語る。
 一方で、舌下免疫療法の効果には個人差があり、治療を続けても症状に改善がみられない患者も2割ほどいるという。アレルギー反応が抑えられる詳しい仕組みも完全には解明されていない。大久保さんは「治療をよく理解し、医師と相談した上で始めるか決めてほしい」と話す。
 薬を処方できるのは、講習などを受けた医師に限られる。舌下免疫療法をしている医療機関は、製薬会社のホームページなどで探すことができる。


参考・引用
朝日新聞・2018.3.21