性不妊 精索静脈瘤

精子つくる機能、多様な改善方法 男性不妊 精索静脈瘤の手術、保険対象に

不妊に悩む男性の8割は、精子をつくる機能に問題があるとされる。
そのなかでも多い、血液が逆流して精巣にこぶができる「精索静脈瘤」に有効な手術が、4月から公的医療保険の対象になった。
食事や生活習慣を見直して精子の状態が改善する人もいて、治療の選択肢は広がっている。

埼玉県の会社員の男性(40)は6年前に妻(30)と結婚した。
子どもを望んだが授からず、昨秋から、不妊治療ができるクリニックに一緒に通い始めた。
 
男性は精液検査で、精子濃度と運動率が世界保健機関(WHO)の基準値より低かった。
これらの数値が低い状態は「OAT症候群」と呼ばれ、精子をつくる機能に問題がある。超音波(エコー)検査で左の精巣の周囲にこぶが確認された。
精索静脈瘤と診断され、手術できる独協医科大埼玉医療センターを紹介された。
 
男性は今年6月、センターで手術を受けた。
4月から保険適用になったばかりの顕微鏡を使う手術で、費用は1泊の宿伯費を含めて約8万円。
保険適用前より患者負担は約15万円少なくてすむ。
男性は「妻と私で不妊治療に毎月4万~5万円使っていた。保険が使えてよかった」と話す。
 
センターによると、手術から約3~6ヵ月後、患者の50~70%で精子濃度や運動率が改善する。
数値が改善しなくてもDNAが損傷した精子が減ったという報告も多い。
9月に検査予定の男性は「精子の状態が良くなることを信じて待ちたい」と話した。

食事・生活習慣も関係 
精索静脈瘤は精巣から静脈を通って心臓に戻る血液が逆流して生じる。
思春期以降にできることが多く、一般男性の約15%にあると言われる。
こぶがあることで精巣の温度が上がるなどして精子をつくる機能が低下、精子濃度や運動率が悪化する。
 
手術では、逆流している静脈を縛って切断する。
別の静脈から血液が流れるようになると、こぶが消え、精子の状態を改善できる。
自然妊娠や体外受精の成功率も高まる。

手術は複数の方法があり、4月に保険適用になった顕微鏡を使う手術は、合併症や静脈瘤の再発率が低いとされる。
一方、高い技術が必要で、時間をかけても丁寧に行うことが治療成績を高めるという。
 
男性の手術を担当したセンターのI 医師は「精巣の周囲に違和感や痛みを感じたり、お風呂上がりに触ってぼこぼこしていたりしたら、精索静脈瘤の可能性がある。泌尿器科を受診してほしい」と話す。

精子の質を高めるため、生活習慣の見直しやサプリメントなどの服用を指導するケースも広まっている。

横浜市立大学生殖医療センターのY部長らは2012年4月~15年9月、不妊男性66人にビタミン剤や漢方薬をのんでもらった。
 
治療前と治療後1カ月、3ヵ月で精子の運動率や濃度が上がり続けた人は約半数の34人、うち13人は妊娠に結びついた。
ビタミンEは抗酸化作用、ビタミンB12は精子をつくる機能を高
めると期待されるという。
 
Y部長が代表を務めた厚生労働省研究班の調査では、不妊男性の8割は精子をつくる機能に問題がある「造精機能障害」。
うち精索静脈瘤は30%、原因不明は42%あった。

Y部長は「原因がわからない人や手術に抵抗がある人にはビタミン剤などの服用、禁煙や適度な運動と睡眠といった生活習慣の見直しを勧めている」という。
 
暮らしぶりとの関係を示す研究も多い。
欧州の研究では、適度に運動する人のほうがそうでない人より精
子の運動状態が良かった。
約2千人を調べた欧州の別の研究によると、不妊の原因がある男性は、パートナーが妊娠した男性に比べて体格指数(BMI)が有意
に高く、肥満傾向だった。
 
熱がこもるボクサーパンツをはくと精子の質が悪くなりやすい、射精しない「禁欲期間」が長いほどDNAが傷ついた精子の割合が高いという報告もある。
      
参考・引用一部改変
朝日新聞・朝刊 2018.7.25