高血圧の基準

高血圧、基準は? 海外で引き下げ、測る場所で違いも

放っておくと脳卒中心筋梗塞など様々な病気を引き起こす高血圧。
自覚症状がないため、サイレントキラー(静かな殺し屋)とも呼ばれている。
血圧は心臓から送り出された血液が血管の壁を押す圧力のことを指し、送り出される血液の量、血管が収縮して血流が妨げられる血管抵抗、血管の柔らかさによって決まる。
心臓が収縮して血液を送り出すときの値が最高血圧収縮期血圧)、心臓が拡張したときの値が最低血圧拡張期血圧)で、この二つを測る。
 
日本高血圧学会の指針では、最高血圧が140mmHg以上または最低血圧が90mmHg以上だと高血圧と診断される。
年齢とともに血圧は高くなる傾向があり、高血圧の患者数は国内に約4300万人いるとされている。
 
高血圧の基準を巡っては、最近、国際的に動きがあった。
 
昨年、米心臓協会などが14年ぶりに改訂した指針で、高血圧の基準をこれまでの140/90から130/80に引き下げた。
140未満よりもさらに下げた方が心筋梗塞脳卒中などのリスクが下がるとする様々な研究結果を根拠としている。
 
一方、今年指針を改訂した欧州の学会は、140/90の基準を維持したが、高血圧患者の治療目標は65歳未満で可能ならば130未満とした。
日本も来年、指針の改訂が予定されており、その内容が注目されている。

私的コメント
個人的には、米国より欧州の高血圧基準の方が正しいと思われます。
65歳を境として2つのグループに分けるのはいささか乱暴ではありますが、年齢を考慮しない米国よりはまだマシです。
なぜなら、高血圧の治療目標値は動脈硬化が完成して血液の循環が悪くなった高齢者で過度な降圧は危険だからです。
常々患者さんには説明しているのですが、比較的若い方への高血圧治療の目標は動脈硬化(これは血管の臓器障害)を防ぐことです。
一方、動脈硬化が完成してしまっている高齢者では、残念ながら動脈硬化の予防はあまり意味がありません。
過度の降圧に注意して脳、心臓や腎臓への血流を保つ必要があります。
そして、高血圧に伴う脳血管障害(脳梗塞脳出血)といったカウンターパンチを回避することが大切になります。
これは糖尿病治療にもいえます。
糖尿病専門医は血糖コントロールを一義的に考えますが、高齢者の低血糖(これは致命的なことがあります)には十分な配慮が必要です。
最近「熊本宣言」が出され、血糖コントロールの治療目標値が随分緩和されました。
これはそういった厳格なコントロールに対する警告でもあります。
ここで興味深いのは、高血圧の治療目標値が厳格化の傾向にあり、糖尿病の場合は緩和されつつあることです。
少し語弊がありますが、糖尿病の場合よりも高血圧の治療をより徹底させるべきであるということです。
両方がある患者さんには当然後者を重点的に治療すべきです。

さて、欧米は日本と違って、こういった基準を単純化する傾向にあります。
これはこれで素晴らしいことだと思います。
複雑なことを単純化することは実は難しいことであり、また真実を削り出す作業でもあるからです。
一方、日本はといえばガイドラインも最初に折角単純明解に作られた内容も改定の度に複雑化(改悪)される傾向にあります。
これは日本人の生来の気質ともいえます。

最高血圧が115から20上昇すると、脳卒中心筋梗塞などのリスクは倍になるとの研究結果がある。
血圧が130/80を超えていたら、生活習慣の改善に取り組みたい。
 
高血圧の治療には食事や運動、飲酒、喫煙といった生活習慣の改善が有効だ。
 
塩分をとる量が増えると血液量が増えて血圧が上がるとされ、食事は減塩が基本だ。
また、塩分を排泄しやすいカリウムを多く含む野菜や海藻をとるほか、運動ではウォーキングなどの有酸素運動が有効とされる。
 
薬による治療もある。
主な治療薬には、血管を広げる「カルシウム(Ca)拮抗薬」、血管を収縮させる物質に関与する「アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)」や「ACE阻害薬」、体の中から塩分や水分を出す「利尿薬」などが使われている。

家庭での毎日の測定が大切
高血圧には診察室の測定では基準を下回っても、早朝や夜間に、あるいは職場で血圧が上がる「仮面高血圧」というタイプの人がいる。
このタイプは、脳卒中心筋梗塞になるリスクが2~3倍高いとされている。
睡眠時無呼吸症候群、糖尿病などの病気だったり、寝る前にお酒をたくさん飲んだりしていると夜や早朝に血圧が高くなることがある。
 
また、診察室で測ると緊張して一時的に血圧が上がる「白衣高血圧」もある。
季節によっても違いがあり、一般的に寒い冬の方が夏よりも血圧は高くなる。
 
こうしたタイプを見分け、本来の血圧を知るのに重要とされているのが家庭血圧だ。
家庭で測る血圧は診察室よりも低めに出るため、家庭血圧の高血圧の基準は、135/85以上となっている。
 
私的コメント
ここにも大きな問題があります。
それは外来血圧と家庭血圧を5mmHgの差としていることです。
患者さんも実感していることですが、両者の差は10~205mmHgぐらい違うのは当たり前だからです。
学会もそのことに早く気づいていただきたいものです。

日本高血圧学会は、家庭で使う血圧計として、上腕に巻いて測るタイプを勧めている。
朝と夜の2度、朝は起床後1時間以内で朝食や服薬の前、夜は寝る直前に測る。
トイレをすませ、いすに座り、1~2分安静にしてから2回測り、その平均をとる。
 
家庭血圧が高いと将来病気になるリスクが高まる。
できるだけ毎日測り、自分の本来の血圧値を把握しておくことが大切だ。

参考・引用一部改変
朝日新聞・朝刊 2018.9.8