心房細動の「レーザー光」治療

脈が異常に速くなる心房細動 新たに保険適用になった「レーザー光」治療とは?

頻脈を起こす不整脈、心房細動の根治的治療として、カテーテルアブレーションが広くおこなわれている。心筋組織を焼灼する治療法で、早期におこなえば根治率も9割以上。バルーンを用いた新しい方法が続々と登場している。

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心房細動は不整脈の一つで、脈が異常に速くなる頻脈になる。
放置すると心臓でできた血栓(血のかたまり)が脳に流れ、脳梗塞(心原性脳塞栓症)のリスクが高くなる。
そのため、診断されたら早めに治療を検討すべきだとされている。

薬物療法では、血栓をできにくくする抗凝固薬、頻脈を改善するレートコントロール薬や抗不整脈薬が処方される。
一方、より根治的な治療法として、カテーテルアブレーション(心筋焼灼術)が広く普及し始めている。

心房細動は心筋の異常な電気信号から引き起こされる。
カテーテルアブレーションはその心筋を焼灼、いわばやけどさせて組織を変性・隔離して、電気信号が周囲に伝わるのを遮断する治療法だ。
太もものつけ根からカテーテルという細い管を入れて心臓に到達させ、焼灼する。
手技自体は1994年に保険適用になったが、心房細動に対しては電気信号を発する箇所を探し出して焼灼する方法で効果が低かった。

原因箇所が特定され治療は大きく前進
しかし98年に左心房の肺静脈開口部(4本の肺静脈とのつなぎ目)が心筋の異常な電気信号の発生箇所として特定された。

原因箇所を特定できたのは画期的なことだった。
これにより、肺静脈開口部を第一のターゲットにして焼灼がおこなわれるようになった。

カテーテルアブレーションには、
・ 高周波電流を電極カテーテルの先端から流して焼灼
・ 種々のエネルギーをバルーンカテーテルという医療機器から流して焼灼
の二つの方法がある。
さらに、バルーンカテーテルによる方法では現在、三つの焼灼法が保険適用になっている。

原因箇所である肺静脈開口部に合わせたバルーンカテーテルが2014年に保険承認され、心房細動の治療は大きく前進したといえる。

もっとも新しいものとして、レーザー光で焼灼する方法が18年7月に保険適用になったばかりだ。

電極カテーテルを用いた方法は、直径約2ミリのカテーテルの先から出る高周波電流で心筋を焼灼していく。一点一点、30~60秒かけて焼くため、熟練した医師で手術時間は2~3時間。
技術的にむずかしく、医師の技量や経験値で効果が異なることがある。
まれに合併症として、深く焼灼しすぎた場合、心臓の組織に孔を開けてしまうことがある。

しかし肺静脈開口部にかぎらず、どのような場所にもおこなうことができる。

一方、バルーンカテーテルを用いた方法は、直径28ミリのバルーンを心臓内でふくらませ、肺静脈開口部に当てて接触した部分を焼灼する。
帯状に均一に焼灼できること、手術時間が短縮できる場合があること、電極カテーテルによる焼灼ほど技術的にむずかしくないことなどがメリットだ。
冷凍凝固によるクライオアブレーション、高周波電流を使用するホットバルーンアブレーション、レーザーによるレーザーアブレーションの三つがある。

◯ クライオアブレーション(14年承認)=バルーン内で液体窒素を気化させ冷却、バルーン表面をマイナス40度~マイナス60度にする。

◯ ホットバルーンアブレーション(16年承認)=バルーンに入れた生理食塩水を高周波電流で温め、バルーン表面を60~70度にする。

◯ レーザーアブレーション(18年承認)=バルーン内からレーザー光を当てて焼灼する。バルーンをふくらませることでその周囲の血液を排除し、レーザー光で心筋組織を焼灼できるようにする。バルーン内に内視鏡を入れるので、より安全に治療がおこなえる。

バルーンを用いるデメリットとして、バルーンサイズがある程度決まっているため、肺静脈開口部の大きさによっては使えないことがある。
ただ、ホットバルーンとレーザーバルーンは大きさを調整できるので、比較的、対応可能だという。
また、接触する心筋表面に凹凸があると、焼灼が十分でないこともある。

合併症として、肺静脈の深部にバルーンを設置した場合、横隔膜神経を障害するリスクがある。
回避のため、術中に横隔膜神経を刺激して、障害されていないかモニタリングしながらおこなわれる。

カテーテルアブレーションでは、入院日数は3泊4日くらいですむ。

まだ現役で、これから先、薬を飲み続けることをためらわれる世代や、薬で症状が治まらない症例には、カテーテルアブレーションはよい適応になる。

発作性で治療すれば効果も高い
心房細動は、
・発作的に起こり7日以内におさまる発作性、
・7日以上継続する持続性、
・つねに心筋が震えている長期持続性
の3期に分けられる。

カテーテルアブレーションの効果は、どの段階で受けるかに左右される。

発作性なら根治率は9割以上だが、持続性で7~8割、長期持続性で5~6割と、確実に下る。

さらに持続性、長期持続性では、肺静脈開口部だけでなく、さまざまな場所で異常な電気信号が起こるようになる。
そのため、電極カテーテルを用いて複数の原因箇所を焼灼することになり、手術時間も長くなる。

心房細動は進行性の疾患と考える必要がある。
早く治療をすれば、バルーンアブレーションで根治させることも可能となる。

焼灼法は、進行度や患者の状態を考慮し決められる。

レーザーアブレーションは全国4施設で20例に早期導入され、現在そのデータの解析中で、臨床で用いられるのは、8月からになる予定だ。
クライオアブレーションは約250施設で、ホットバルーンアブレーションは70施設で受けることができる。

参考・引用 一部改変
週刊朝日 2018.7.27