がん 出にくい症状 定期検査を受けよう

出にくい症状 定期検査受けて

今年(2018年)もがんでたくさんの著名人が命を落としました。
なかでも女優の樹木希林さんの「生き方」「逝き方」に心を揺さぶられた人も多かったのではないでしょうか。

2004年に希林さんは乳がんが判明し、乳房の全摘手術を受けました。
その後「全身がん」を公言していました。
この「全身がん」は医学用語ではありません。
さまざまな部位への転移が見つかった「全身転移」の状態でした。
遺伝子の「経年劣化」によって不死化したがん細胞が、免疫の攻撃をかいくぐり生き残ることからがんの長いストーリーが始まります。

がん細胞は分裂を繰り返し、10~20年の長い時間をかけて1センチメートルほどの大きさになります。
この大きさにならないと、私のようながん専門医でも診断は困難です。
早期がんは2センチ程度までの大きさを指しますが、この大きさでは症状が出ることはまずありません。
ですから、早期にがんを見つけたかったら絶好調でもがん検診を受ける必要があります。
がんがさらに大きくなると血液中に侵入し、別の臓器に新天地を見つける細胞も現れます。
これが転移ですが、がん細胞は大腸菌などと同じようにクローン増殖で増えますから、全身に広がった無数のがん細胞は最初の細胞と同じ細胞といえます。
全身の転移に同じ薬が効くのはこのためです。


希林さんは薬物療法を拒否し、転移した病巣へピンポイントでの放射線照射を受けてきたと聞きます。
生前のインタビューなどから、仕事を第一に考えて治療法を選択していたことがうかがえます。
その結果、全身に転移があるにもかかわらず、映画やテレビで大活躍してきました。
(私的コメント;執筆者の中川先生は放射線専門医です)

「がんは痛くてつらい病気」と多くの日本人が誤解しています。
そうした症状が表れるのは、亡くなる直前のこと。
たとえば肝内胆管がんで死去した女優の川島なお美さんも、亡くなる数日前までミュージカルの舞台に立っていたといわれます。

がんは「症状を出しにくい病気」です。
早期に発見するには無症状でも定期的に検査を続ける必要があります。
私自身も先日、ぼうこうがんを早期に発見しました(されました)。

執筆者
東京大学病院准教授・中川恵一先生

参考・引用一部改変
日経新聞・夕刊 2018.12.26