妊娠中 薬使う選択も

妊娠中 薬使う選択も

治療効果とリスク 見極め処方
妊娠中に薬を使うことで、子どもに悪影響が出るのではと心配する妊婦は少なくない。
そんな中、妊婦への処方を避けるよう求められてきた薬の使い方の見直しが進んでいる。
海外の使用例などから、条件を満たせば安全に使用できるとわかったからだ。妊娠と治療の両立につながると期待されている。

免疫抑制剤続け出産
東京都に住む女性(46)は19歳の時に38度以上の発熱が約1カ月続き、「全身性エリテマトーデス」(SLE)と診断された。
体を外敵から守るはずの免疫が自分の体を攻撃する難病で、症状を抑えるステロイド剤などを使い始めた。
 
32歳で結婚。
妊娠でSLEの症状が悪化する恐れがあると聞きあきらめていたが、30代後半に主治医から「出産できるかもしれない」と言われ、国立成育医療研究センターを紹介された。
 
同センターの妊娠と薬情報センター長から、より高い治療効果が期待できるとして、免疫抑制剤「タクロリムス」も使うことをすすめられた。
当時、タクロリムスは製薬会社が薬の注意点などを示した「添付文書」で、妊婦への使用を控える「禁忌」となっていた。
動物実験で子どもに奇形が出たことなどが理由だった。
 
ただ、「服薬した人としなかった人を比べても、子どもに異常が出る確率は変わらない」と説明を受け、服用を始めた。
その後妊娠がわかり、7年前に長女を出産。
自身にも長女にも薬の副作用はなかった。
女性は「子どものおかげで生活に張り合いが生まれた。出産できて良かった」と話す。
 
昨夏、タクロリムスなど3種類の免疫抑制剤の添付文書が改訂された。
治療効果がリスクを上回れば使って良いことにした。
これまで、添付文書がもとで妊婦が服薬をやめて持病が悪化したり、妊娠をあきらめたりする例があったからだ。
 
改訂の決め手は、妊娠と薬情報センターの報告書だ。
報告書は、海外の使用例などから薬を使った人で赤ちゃんに異常が出る確率が上がった報告はないと指摘。添付文書の見直しを求めた。
 
3種類の免疫抑制剤は、臓器移植を受けた患者が拒絶反応を抑えるためにも使われる。
このように添付文書の改訂の意義は大きい。
移植患者の出産が増えるものと思われる。

根強い不安、医師らに相談を
妊娠と薬情報センターは今後、妊婦の使用が添付文書で禁忌となっているものの、医療現場では使われているとみられる降圧薬「カルシウム拮抗剤」についても安全性を評価して報告書をまとめる方針だ。
 
どんな薬でも妊娠中に使うことで、子どもに異常が出ることを心配する声は根強い。

薬を使わなくても2~3%で異常のある子が生まれる「ベースラインリスク」がある。
薬を使うかは、「ベースラインリスク」と比べてリスクがどうかを判断する必要がある。
リスクが高まる薬はわずかで、薬を使い始めるときに医師が説明する。
 
例えば、明らかにリスクが高まる薬を使っていた女性が妊娠を希望している場合は、リスクの低い薬に代える。
ベースラインリスクと変わらない薬は持病の治療で必要なら使う。
一方、かぜなど症状が軽く自然に治るような病気であれば使わないこともある。
 
国立成育医療研究センターは、2016年までに妊娠中の服薬について相談に来た妊婦ら681人に意識調査をした。
「使用中の薬によって異常のある子が生まれる確率は何%と思うか」「妊娠を継続する意思は何%か」を聞いた。
 
赤ちゃんに異常が出る確率が高まる薬を使っていた65人を除き、相談前後の回答を比べた。
「薬の影響で異常が出ると思う確率」の中央値は相談前の33%から、相談後は4%に下がった。
妊娠継続の意思も86.5%から100%に上がった。
 
妊娠と薬情報センターは妊娠中の服薬について相談を受け付けている。
電話や主治医、全国の拠点病院を通じて相談できる。

朝日新聞・朝刊 2019.2.20