進歩する医療、変わる死因

進歩する医療、変わる死因

日本人の死因は医療技術の進歩で大きく変遷してきた。
不治とされた病に対して新たな薬や医療技術が登場し、寿命を伸ばしてきた。
今まさに問題になっているがんや心疾患などの病気も、医療の発達によっていつかは克服されていくだろう。

厚生労働省の「人口動態統計」で1900年からの主な死因を見てみると、肺炎、胃腸炎結核が上位にある。これらは全て感染症だ。
特に体力があれば回復しやすい肺炎と胃腸炎などと違って、結核は不治の病として最も恐れられていた。
その後、結核の死亡率は劇的に下がる。
衛生状態の改善や栄養状態の向上に加えて、ワクチンや抗生物質ストレプトマイシン」の普及など医療の発達によるところが大きい。
世界保健機関(WHO)によると、日本は現在も結核の中まん延国でまれに問題になるが、かつてのような「死に至る病気」という認識ではなくなった。
医療の発達によって恐れられた病気を克服した。

感染症に代わって60年代の死因のトップは脳卒中などの脳血管疾患だ。
この病気のリスクとなるのは生活習慣だが、特に高血圧のリスクは高い。
健康診断で早期に高血圧の人を見つけ、血圧を下げる薬物治療を行うことで死亡率は減少した。
救急医療の整備や食の欧米化によって血圧を上げる塩分の摂取量が減った影響も大きい。
80年代では死因のトップはがんだ。
手術と化学療法、放射線治療の3本柱の治療が行われてきたが、高齢化に伴って死亡率は上昇を続けている。2010年以降は相次いでがんに対する免疫療法が登場して、新たながん治療の柱になる可能性が高まっている。
免疫のブレーキを解除する「免役チェックポイント阻害剤」の開発につながる基礎研究の成果を上げた本庶佑京都大学特別教授に、今年のノーベル生理学・医学賞授賞が決まった。
本庶特別教授は「がん免疫療法の登場は感染症を克服した抗生物質の登場に匹敵する」と強調する。

アオカビから偶然に見つかった抗生物質ペニシリンは、人間が持たない細菌が持つ酵素に作用して殺菌するため、効果が高く副作用が少ない。
この成功が人類を抗生物質の開発に向かわせるきっかけとなり、感染症克服につながった。

がん免疫療法も本庶氏らの成功を機に医学研究が活発になり、効果的な治療法が次々と登場すれば、がんも不治ではなくなるかもしれない。
死亡率が増加傾向の心疾患でも世界で再生医療の開発競争が繰り広げられている。
次々に問題になる病が現れ、その治療法を開発する取り組みが続きそうだ。

参考・引用一部改変
日経新聞・朝刊 2018.11.29