がん発見「AIの目」実用化

がん発見「AIの目」実用化 オリンパス、正答率9割

人工知能(AI)で、患者の病変を見つけるプログラムの本格的な導入が始まる。
オリンパスは大腸の早期がんなどの診断を支援する国内初のシステムを8日に発売する。
熟練医師による診断ノウハウを再現。
早期発見につなげる。
医療機器の競争軸は診断AIなどソフト開発に変わりつつあり、グーグルのような米IT(情報技術)大手との連携が進みそうだ。

オリンパスが発売するのは「エンドブレイン」と呼ぶソフトウエアだ。
医師は通常の内視鏡検査と同様に、スコープを患者の体内に挿入して大腸のポリープを撮影する。
医師が内視鏡を操作するとAIが患部の血管や細胞の構造を解析し「腫瘍の確率97%」などと瞬時に表示する。
後にがんになる恐れがある「腫瘍性ポリープ」であればすぐ切除する手術に移れる。
通常、同様の検査では熟練の医師がその場で判断するか、組織の一部を採取して精密な検査にまわしていた。
開発したAIの判断の正答率は9割超と、経験の浅い医師らの7割前後を大きく上回る。
新プログラムを使うことで検査に携わる医師らの業務量が適正になる。
悪性でないポリープを切除する不要な手術がなくなり、患者の負担が減ることもある。
AIで診断を支援する内視鏡向けのソフトでは国内で初めて、医療機器として承認を得た。
海外では眼底の映像から糖尿病性網膜症を検出するプログラムなどが当局の承認を受けているが、まだ事例は多くない。
日本でこれまで製品化されたのは、コンピューター断層撮影装置(CT)で撮影した画像のノイズをAIを使って減らすプログラムなどだ。

エバリュエートによると世界の医療機器市場は2024年に5945億ドル(約66兆円)と、17年の4050億ドルから5割ほど成長する。
これまでの診断機器は、観察できる病気を増やす、医師の使い勝手を高めるといった点が競争の中心だった。
より性能を高めるため、AIをはじめとするIT分野に競争の中心が移りつつある。
それだけにAIを使った診断支援のプログラムは、医療機器大手がこぞって開発に力を入れる。
内視鏡では富士フイルムなどもプログラムを開発中。
CTやX線撮影装置では日立製作所キヤノンメディカルシステムズのほか、シーメンスなどの海外大手が開発を進めている。
軒並み取り組んでいるのは、機器だけを提供するのと比べて診断や治療の水準を底上げでき、付加価値を高められるためだ。

診断に使うAIの開発はIT大手の得意分野だ。
医療機器大手と組んだプログラム開発も進む。
ニコンは米グーグルの親会社である米アルファベット傘下の企業と組み、眼底カメラで使う診断プログラムに取り組む。
グーグル本体も医療用AIの開発を進めているとみられる。
半導体大手エヌビディアも医療機器大手と組み、AI研究を支援する。

将来はグーグルなどが競合相手になる可能性もある。
医療AIをめぐる合従連衡が一層進む可能性もある。
医療AIでは、患者データの収集も一つの競争の軸になりそうだ。
診断支援のプログラム開発では、医師が診断画像の異常な部分に印をつけて、AIに病気の特徴として学習させることが多い。
病気の画像が多ければAIが学習する材料が増え、精度を高めやすい。
日本では情報を厳重に管理する医療機関が多い。
仮に大量の患者情報を握る海外企業などが出てくれば、業界の勢力図は一変しかねない。
先行する米国に続き日本でもAIによる診断支援プログラムが登場するが、ルール整備はまだこれからだ。
審査を担当する独立行政法人、PMDA(医薬品医療機器総合機構)による承認プロセスや、医療現場での使い方などで多くの課題が残されている。

例えば新しいデータを取り込んで常に賢くなるのがAIの特徴だが、今回オリンパスが発売するプログラムにはそうした機能は搭載しない。
発売後に医療現場で撮影した画像データをAIが学習した場合、誤診データなども蓄積してしまう可能性があり、病気を特定する性能が低下する恐れがあるからだ。
AIに新しいデータを取り込むには、そのつど改めて性能を評価し承認を取り直す必要がある。

2019年には医薬品医療機器等法の見直しが予定されており、厚生労働省はこれを念頭にAIプログラムの審査・承認方法についても検討を進めている。
そこでも市販後のAIの性能変化への対応が焦点の一つとなっている。
医療現場でAIを使うにあたって、最終的な責任を誰がとるかも議論を呼びそうだ。
現状ではAIはあくまでも医師のサポート役。最終的な責任は医師が負う形だが、AIの役割が大きくなるに従い線引きはあいまいになりそうだ。
がんの見逃しが起きた際の責任の所在などについても、ルール整備が求められそうだ。

参考・引用一部改変
日経新聞・朝刊 2019.3.5