アトピー治療 新薬で前進

アトピー治療 新薬で前進

抗体でかゆみ・炎症抑える 日常生活送りやすく
(以下は記者自身の体験談を織り交ぜて話が進行)
アトピー性皮膚炎は慢性化するとなかなか症状がよくならない。
一日中ひどいかゆみに悩まされて、勉強や仕事に集中できなくなる。
夜、熟睡もままならない。1年前、かゆみとそのもとになる皮膚の炎症反応を抑えるバイオ医薬品が登場、スキンケアと併用すれば普通に日常生活を送れるようになってきた。

記者は生まれてすぐの頃からアトピー性皮膚炎を患ってきた。
半世紀の人生を振り返ると、乳幼児の頃は母に連れられ病院通い、いったんはよくなったが、思春期を迎え症状が悪化した。
ステロイドの塗り薬を使っても効き目は限られていた。
 
かゆみは痛みよりも我慢しづらいと思う。
顔や体をかきむしってしまい、気がつけぱ滲出液でじくじくし血がでることもある。
なぜか体もだるくなる。
記者になってからもストレスやプレッシャーがかかると、症状がひどくなった。
 
昨年夏ごろ、ある医療記事で国内でアトピー性皮膚炎を対象に新薬「デュピクセント」が使えるようになったことを知った。
定期的に塗り薬をもらっていた北里大学北里研究所病院で相談すると「顔や体の皮膚の赤みが強い。最重症のなかの軽め」(主治医のK皮膚科部長)という診断で、治療を始めてもらえることになった。
 
デュピクセントは体の中の免疫にかかわるたんぱく質(抗体)を使ったバイオ医薬品だ。
マウスの体を借りて作った抗体を注射し、免疫細胞の一種「Th2細胞」が生み出す 「インターロイキンIL)4」と「TL13」という2つのたんぱく質の働きを抑え、かゆみやかゆみを増幅させる炎症反応を和らげる。
 
アトピー性皮膚炎がどのようなメカニズムで発症し慢性化していくのかは実はまだよくわかっていない。
ただ、外からの異物(アレルゲン)の侵入を防ぐ皮膚のバリアー機能が弱く、皮膚炎を起こしやすい。
かゆみにたえられなくなってかくと、皮膚が傷つき、アレルゲンヘの炎症反応も増す。
 
こうしたかゆみの悪循環をデュピクセントは断ち切る。

「かゆみに対する切れ味は従来の冶療とは異なる」と語る専門医もいる。
 
昨年10月末に初めて注射を打った。
皮下注射というタイプで、薬剤を注入している間もまあまあ痛い。
採血のように注射針を刺すときだけの痛みというわけにはいかなかった。
 
効果はすぐに表れた。
翌日ごろからいつものひどいかゆみが減った。
最初は気のせいかと思ったが、夜、かゆみで目が覚めることもなくなった。
朝起きると、おでこや目の回り、首筋などが無性にかゆく、タオルでごしごしこするのが日課だったが、気づくとそうした動作も減っていた。
 
注射は2週間にI回のペースで打つ。
2、3回投与してもらったころから、かさかさで乾燥すると粉を吹いていた皮膚に張りが出てきた。
体全身に脂を塗ってもらった印象だ。
ひっかき傷もなくなり、顔や首から赤みも減った。
 
副作用として結膜炎になることがあると聞かされていた。
注射後2、3日してから目やまぶたが熱くなることがある。
 
アトピー性皮膚炎の治療効果はいま「TARC」と呼ぶ血液検査の値で評価する。
治療開始当初、3000を超えていた値は700を切るまで下がった。
重症な状態から、見た目アトピー性皮膚炎かどうかわからないレベルに改善した。
 
もちろんかゆみが完全になくなったわけではない。
長年の癖になっているのかもしれないが、気がつくと頭や顔、首に手がいってこすってしまうこともよくある。
 
デュピクセントはよく効くが、基本的には対症療法。
アトピー性皮膚炎の治療では皮膚のよい状態をどう保つかが大切な点に変わりない。
 
2週に1回の注射と併用し顔や体には「プロトピック」という免疫抑制軟こうを毎日塗っている。
洗顔や入浴の後、保湿剤による徹底したスキンケアも欠かせない。
これからもアトピー性皮膚炎と上手につきあっていく人生は続きそうだ。
 
 
*「1回8万円」薬代が課題
デュピクセント」の治療を受けていてやはり驚くのが薬代だ。
現在の薬価は1回の投与で8万1640円になる。
単純計算すると年間で約210万円になる。
もちろん公的医療保険でカバーされるため、自己負担はその一部だが、それでも経験したことのない金額を毎回、病院の会計で支払う。
費用の面から治療をためらうケースもたくさんあるという。
バイオ技術の進展で、がん治療薬「オプジーボ」のように効果が画期的である一方、治療費が高額になるケースが増えている。
国民皆保険で医療が守られている日本では、高額医療は国の財政問題にも跳ね返ってく
る。
デュピクセントは今年3月、重症の気管支ぜんそくに対し、適用拡大になった。
今後、患者数が増えれば「費用対効果」がクローズアップされるかもしれない。

参考・引用一部改変
日経新聞・夕刊 2019.5.15

<デュピクセント関連サイト>
デュピクセント
https://www.dupixent.jp

デュピクセントの特性
https://www.dupixent.jp/property/01
デュピクセントの特性
1 IL-4/13によるシグナル伝達を阻害し、アトピー性皮膚炎の病態に深く関与するTh2型炎症反応を抑える、
  世界初のヒト型抗ヒトIL-4/13受容体モノクローナル抗体(生物学的製剤)です。

2 ステロイド外用薬で効果不十分な中等症以上のアトピー性皮膚炎の症状を改善しました(ステロイド外用
薬との併用療法)。
• 投与開始後16週時に68.9%がEASI-75※2を達成しました(検証試験)。
• そう痒NRS(数値評価スケール)スコア変化率は投与開始後2週時には有意な低下を示し、16週時には
-56.6%でした。
• EASIスコア変化率は投与開始後16週時に-80.1%、52週時に-85.0%でした。
3 通常、成人には初回に600mg、2回目以降は300mgを2週に1回皮下投与します。
4 アトピー性皮膚炎患者を対象とした国際共同試験3試験で本剤300mgを2週に1回投与された403例(日本人
62例を含む)において、副作用は123例(30. 5%)に発現し、主な副作用は、注射部位反応29例
(7. 2%)、頭痛12例(3. 0%)、アレルギー性結膜炎7例(1. 7%)でした(承認時)。重大な副作用とし
て、重篤な過敏症があります。

<効能又は効果に関連する使用上の注意>
1 ステロイド外用剤やタクロリムス外用剤等の抗炎症外用剤による適切な治療を一定期間施行しても、十分な効果が得られず、強い炎症を伴う皮疹が広範囲に及ぶ患者に用いること。

2 原則として、本剤投与時にはアトピー性皮膚炎の病変部位の状態に応じて抗炎症外用剤を併用すること。

3 本剤投与時も保湿外用剤を継続使用すること。